【米穀VIEW909】先物はコメ需給に「著しい支障」を与えるか⑳

今年8月7日に到来するコメ先物市場二度目の試験上場期限をめぐり、改めて先物の是非を検証する連載。今回は「事例紹介」だ。少なくとも一度はコメ先物取引に参加した経験のある2当業者に訊いた。
【当業者A】
商系集荷業者で、先物「経験」は過去一度だけ。買いで入り、現物を受けて(合意早受渡)終わった。「一度やってみよう」という体験取引の色彩が濃いが、「証拠金は積んであるので、必要があればまた参加する」。今のところ現物受渡もヘッジの必要性も感じておらず、「先物がなければ困る、ということはない」。ただ「今後、先物を使う場面は出てくると見ている」。「廃止するのは簡単だが、残しておけばどこかで必要な状況が出てくる。いま存在しているからといって、誰もデメリットを被っていないのだから、残しておくべきだと思う。少なくとも(生産調整の見直し初年度である)平成30年産が始まるまでは、残しておくべきだ」とも。
現行の仕組みに対して、不満というほど大きなものはないが、「今の先物が使いづらいというわけではないが、一般の投機家が入ってこないと当業者はやりにくい。特にヘッジしようと思ったら、もっと取引量が多くないと。逆に言うと、今は取引量が少ないからヘッジもしない」とする。「今は先が見えなさすぎて、どちらにどうヘッジしていいか分からない状態。同じように今は慎重になっている当業者は多いのではないか。だからこの先、もう少し状況が見えてくれば、参加してくる人も増えてくるのではないか」とした。
【当業者B】
農産物商社。他の農産物ではシカゴなどを活用していた一方、コメ(現物)は子会社任せだったが、72年ぶり上場を機に、シカゴなどの経験を活かすべく参加した。以来、今日までリスクマネジメントの側面からコメ先物に携わり続けている。したがって姿勢は明確だ。
「先物市場は投機的なものとしか見ていない人もいるが、そうではない。我々はリスクマネジメントするツールとして見ている」、「最終的には生産と実需の間に入り、様々なリスクマネジメントの提案をできたら良いということで、現物市場に先物市場を反映させ、売り手にしても買い手にしても様々な提案をしている」、例えばどんな提案か。「現物で先渡契約をする。例えば今、11月に新米の受渡をしましょうと契約をする。『ここで決めたらこの値段』であって、市場価格が上下しても変わらない。現物には収穫前契約や播種前契約というものもあるが、大事なのは値段を事前にハッキリ決めることだ。基準価格の±10%といったやり方も分かるが、最終価格が不明瞭なのはリスク以外の何物でもない。皆さんスポット取引はやられているが、それはあくまで今日受け渡す今日の値段。そうではなく、1か月後、3か月後、半年後の受渡契約をすると、計画が立てやすい。これが我々の提供する選択肢だ」。
現行の仕組みには、注文が多い。「まず板寄せでなくザラバにしてほしい。今の板寄せはほぼ対面と同じ。他の農産物市場と同様、オンライン化してザラバにすれば、投資家からのアクセスは格段に良くなる。もちろん費用がかかる。将来の収入を当て込むか、収入が増えてから投資するかは考え方の違い」。「もう1つは、今の連続6限月ではなく、隔月6限月制にして、1年先まで取引できるようにすること」。何故かというと「トウモロコシや大豆と同じ条件で揃えた選択肢にすることで、金やエネルギーを取引している人たちが、少し覗いてみようということもあると思う」。つまり投資家(あえて言えばリスクヘッジ資金)を呼び込むための注文だ。
その上で、コメ先物の将来に、こんな可能性を見出す。「コメ先物では、輸入米市場、輸出米市場、国内コメ市場と、いろいろ作ることができる可能性がある。大阪コメ、東京コメは国内国産市場のままでいいが、sBs10万tにだって市場性はある。アメリカ産、オーストラリア産、中国産の玉を上場し、日本で受け渡す。また日本産米を香港やシンガポールで受け渡すことを考えてもいい。あくまで将来的な、夢のような話だが、理論的にはあり得る。そういう意味で、コメ先物を廃止するという選択肢はありえない。

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