「農政の語り部」高木勇樹氏インタビュー〈4〉「違法状態」の食糧法、今こそ「創造的破壊」を

高木勇樹氏
――果たして創造的破壊が起こって来るかどうか。

いや、このままでいくと、起こる・起こらないではなくて、起こらざるを得ないと思いますよ。現場で、農業経営者は、そうしたことに取り組まなければ生き残っていけない。だから取り組まざるをえず、結果的にそれが「創造的破壊」を内容としたものになる、すでになっているのだと思いますね。

こうしたことは、ある意味で歴史が証明しています。かつて認められなかった「ヤミ耕作」は後に認められましたよね。当時は完全な農地法違反でしたけど、先駆者が「創造的破壊」をし、後にそれを国が認めたわけです。今の部分的な農業政策はみんなそうですよ。農商工連携、農福連携、農医連携、六次産業化。それからスマート農業も輸出も。創造的破壊の先駆者がいて、そうした実例を行政が採り入れる――このケースがほとんどですよ。結果的に創造的破壊にならざるを得ず、率先してやるべきなんですが、やらなければ現場で創造的破壊が起こるだけの話です。

米なんて、まさにそうですよ。食管制度は、簡単に言うとヤミ屋さんが潰したんですよ(笑)。でも今、生き残ってる卸さんは大半がかつてのヤミ屋さんじゃないですか(笑)。これこそまさに創造的破壊の好例ですね。1990年(平成2年)に「自主流通米価格形成の場」を作ろうとしたとき、私は食糧庁企画課長で、渡辺五郎さん(故人。元農林水産事務次官、当時は生研機構《現在の農研機構の一部》理事長からJRA《日本中央競馬会》理事長)が座長を務めた検討会の席上、全農さんも卸さん方も「消費者は価格変動を望んでいない」見解で一致していたのに、当の消費者委員が否定的な発言をしたものだから、一挙に市場化の方向に突き進んだことがありました。それから2002年(平成14年)の「生産調整に関する研究会」では、以前からの私の持論で「系統共計をやめ買取集荷に移行すべき」と発言したら、当時の全農(米穀担当)常務だった岡阿弥靖正さんに「内政干渉だ」と憤慨されたものでした。それが今や国が推し進めるまでになっているでしょう。まだしも不完全なものではありますが。

かつて創造的破壊をしてきた人たちだけが生き残っているわけです。それを、制度システムが追いかけているに過ぎない。ただし、一口に「創造的破壊」といっても、忘れてはいけない大前提があります。それは「消費者が支持すること」です。ニーズを踏まえていない創造的破壊になど何の意味もありませんし、そもそもニーズを踏まえていなければ「創造的破壊」とは呼べません。ここを最大のモノサシに、基本計画も見直していくべきだと思っています。

――最後に、米業界、米政策の今後の「創造的破壊」とは?

そうですね。米の世界でも、すでに創造的破壊が起こり始めているのではありませんか。中食・外食向けの米が足りない。アテにならないどこかの集荷団体を飛ばして直接産地と取引したり、先ほど申し上げたように割合が大きくなってきたミニマム・アクセス米を使わざるを得なくなってきたり。

政策面で言うと、「いわゆる減反廃止」は、結局のところ「国が生産数量目標を配分しない」“だけ”なわけですが、それはとても大きな出来事です。しかし業界内外問わず、そうは受け止められていないきらいがあります。原因は、メッセージ性に欠けたからです。情報の出し方が下手だったこともありますが、食糧法を改正していないからです。

私は最初に「いわゆる減反廃止」って聞いたとき、てっきり食糧法のその箇所を削除するなり改めるなりするものだと思っていたんですよ。法改正を伴ったほうがインパクトが大きく、それだけ政策のメッセージも伝わりやすいでしょう?あにはからんや未だに改正していない。最初の「現実に即していない」という話からすれば、今や「違法状態」とすら言えます。

――つい、こちらは「何かあったときのために、とっておいているのかな。実はいつでも生産数量目標の配分を再開できるようにしているのかな」と、邪推してしまいたくなるんですが。

そう思うのが自然でしょうね。必要があるから残してるんでしょうね、と言いたくなるのも分かります。まぁ二度手間になるのも何ですから、今回これを機に改めて検証しなおし、まとめて改正すべきでしょうね。それも早急に。

蛇足ながら、今の話とは逆になるんですが、今の食糧法には「現実に即していない」箇所がもう一つあるんです。「米穀価格形成センター」を指定する、という件りです。現実にセンターは存在しないわけですし、どうやら民間で手を挙げる方々もいそうにありませんから、こんな条文は削除してしまうべきなんですが……。大阪堂島商品取引所さんは、確かに先物市場ですけど、かなり現物受渡機能が充実していますよね。なら食糧法に基づく「米穀価格形成センター」に指定させればいいじゃないですか。もちろん細かな条件を精査する必要はありますが、恐らく可能なはずですし、指定されれば先物の試験上場やら本上場やらでモメることからも解放されると思いますが。

いや、余計な智慧を授けてしまったかもしれませんね。基本的には食糧法は、まとめて検証して改めるべきです(笑)。

――どうもありがとうございました。

【プロフィール】
たかぎ・ゆうき 1943年(昭和18年)群馬県生まれ。東大法卒、1966年(昭和41年)農林省入省。畜産局長、大臣官房長、食糧庁長官などを経て1998年(平成10年)農林水産事務次官。退官後、農林中金総合研究所理事長、農林漁業金融公庫(当時)総裁など。ライフワークのJ-PAO(日本プロ農業総合支援機構)理事長、JBAC(日本ブランド農業事業協同組合)顧問、やまと凛々アグリネット顧問などを務めている。76歳。

〈米麦日報 2019年10月30日付〉