〈米穀VIEW〉先物はコメ生産・流通円滑化に「必要かつ適当」か「最後の」本上場検証(6) 十分確保されている「市場の健全性」
クリアできていることが分かった「十分な取引量」に加え、過去の「(食料産業)局長通知」や自民党申入書に基づく「追加要件」の一つ「取引参加者層の厚み」にも、問題ないことが分かった。「追加要件」にはもう一つある。「市場の健全性」だ。
「市場の健全性」を測るには、「先物市場の機能の発揮」と「商品設計とその運用」に大別できる。「一般的に、先物市場は、相対取引とは異なり、多数の売り手と買い手が集まって構成され、そこには、商品の需給動向や各地の天候などさまざまな情報が集まり、偏った情報のみに左右されないという意味で公正・中立的な価格が形成される。また、取引所がその価格を世の中に発信、提供することにより、誰でもその価格を即座に知ることができる。さらに、取引参加者が新たな情報に基づき売買を行うことにより、タイムリーに適正な価格が形成されると言われている」。
これに基づいて想定できる「機能」とは、
〈1〉価格発見機能
〈2〉公正・公平な価格形成機能
〈3〉価格変動のリスクヘッジ機能
〈4〉現物受渡・在庫調整機能
――といったところ。
堂島の「コメ試験上場検証特別委員会」が過去3度にわたってとりまとめた報告書では、〈1〉価格発見機能を、米穀機構の価格見通しDI(向こう3か月)と、先物価格の4番限(この当時は毎月限月だったので3か月後の納会月にあたる)とを比較することで明らかにしている。「概して、DIにおいて将来需給が締まるという見方が前月より強くなった時期には、先物価格は上昇傾向にあり、逆に将来需給が緩むという見方が前月より強くなった時期には、先物価格も下落する傾向にあった」。
同じく報告書では、〈2〉公正・公平な価格形成機能を、「見ている(参考にしている)」か否かで測っている。毎回実施したアンケートの結果によれば、2013年版では「約6割」、2015年版では「約7割」、2017年版では「約8割」が「先物価格を見たことがある」と回答しており、“注目度”は上昇傾向にあると言える。
〈3〉価格変動のリスクヘッジ機能は、さすがに定量的なモノサシがないため、報告書ではヒアリングの結果を列挙するにとどめている。他の先物商品に比べコメの現物受渡率が高いことは広く知られているが、〈4〉現物受渡・在庫調整機能は、そうした物量の多さを指摘するのではなく、報告書ではやはりヒアリングの結果を列挙するにとどめている。
「商品設計とその運用」も、これまで堂島が行ってきた数々の見直しが、出来高の増加という結果に直結している例を列挙するのが報告書の構成だ。
例えば、
▽価格調整表(格付表)を段階的に見直し、受渡供用品の格差を最終的にゼロにした
▽受渡場所(指定倉庫)範囲を大幅に拡大
▽合意早受渡制度の創設
▽標準品を変更し、東京コメが業務用、大阪コメが家庭用の位置づけを明確にした
▽新商品「新潟コシ」の登場
――などがあげられている。
報告書は2017年版が最後だが、その後も、
▽取引仕法の板寄せからザラバへの移行
▽新商品「秋田こまち」の登場と「大阪コメ」の廃止
▽新商品「宮城ひとめ18」「秋田こまち17」の登場と「秋田こまち」の廃止
▽「東京コメ」も含め隔月限月への統一
▽新商品「新潟コシEXW」の登場
――と、この10年の間、常に“進化”を遂げてきたのは周知の通りだ。
やや枠外ながら“運用”面では、最初の2013年版の報告書にこんな記述がある。「取引所は認可された最初の年、福島産米を現物受渡玉から除外することがなかった」と指摘した上で、「こうした取引所の対応は、政府の方針、考え方に沿ったものであり、市場としての信頼性を高める上で適切な対応であったものと認められる。
また、結果として、これらの対応が取引所で受渡しされるコメは安全との印象を当業者に与え、福島県産米の円滑な受渡しに寄与した点があったと考えられる」と、高く評価しているのだ。
もちろん、どれほど有益な商品設計や運用を行おうと、取引所としての財政基盤が揺らいでいては「市場の健全性」は得られない。堂島はこの点も考慮しており、つい先達て(4月1日)会員組織から株式会社組織への移行、「(株)大阪堂島商品取引所」の誕生を実現したばかり。この間、コメ先物に尽力してきた岡本安明理事長は潔く身を引き、悲願である本上場実現を中塚一宏社長に託した。その中塚初代社長は、「2025年(令和7年)までの黒字化」目標と「総合取引所化」構想を表明している。
以上のことから、「市場の健全性」は十分に確保されていると受け止めるのが自然だ。
〈米麦日報2021年4月16日付〉