自民党「農業基本政策検討委員会」、近づく衆院選に焦り「早急に50万トン隔離」、農水省は緊急買入否定「あと2日、最後の最後まで滑り込んで」

自民党は6月29日、足元の需給状況をメインテーマに農業基本政策検討委員会(小野寺五典委員長=衆・宮城6区)を開催した。幹部・非幹部問わず自民党議員からは「このままでは衆院選を戦えない」「政府備蓄米の緊急買入で早急に50万tを隔離すべき」となりふり構わず要求する声が挙がったものの、農水省は緊急買入への否定的な姿勢を崩さなかった。

ヒアリング対象の全中は改めて独自の需給見通しを示し、「2022年6月末在庫は253万tと国の見通しよりも約50万t高い水準。相当の需給緩和を懸念している。新型コロナ禍の需要減に対する緊急対策を講じていただきたい」(馬場利彦専務)と要望。

また、全農の高尾雅之常務は需給状況について「一言で申し上げれば、いままで心配していたことがだんだん現実味を帯びてきた」と表現。「元年産では22万tの古米在庫が発生し、2020年11月から2021年のGWまでの6か月でようやく消化できた。ただ、令和2年産の古米在庫は推定で40〜50万tを見込む。つまり倍なので販売に1年かかるのは必至だ。また、3年産事前契約の成約状況は、直近の数字で複数年+播種前が65万t。前年比では45%しか積みあがっていない。2年産もさることながら、3年産も取引先が買い意欲を見せていない」と説明。

概算金については「鹿児島は7月2日に決まる予定で、東北も9月には決まる。西日本と関東以北では需給・在庫状況が異なるため、概算金設定の考え方は大きく異なると考えられる。2年産の価格が下降曲線に入っており、産地としては弱い形での概算金設定マインドになっているので、これを何とか払拭できるよう先生方のお力添えをいただきたい」と要望した。

JAグループからの要望に対して野村哲郎氏(参・鹿児島)は、「概算金決定を前に鹿児島経済連は苦慮している。東日本の単協などから2年産米の売り込みが来ているが、鹿児島は輸入県なので他県から米を買う。しかし、なんと3,000円安で買ってくれという。だが鹿児島も在庫を抱えているので買えない状況だ。もし鹿児島が3,000円安の概算金を付けてしまったら、日本全国に迷惑をかけてしまうと経済連は悩んでいると聞く。3,000円も下がったら、米地帯の先生方はすぐに衆院選を控えているので大変な影響が出る。2年産の在庫を何とかしないと米の値段がガタガタ落ちていく。一つの指標として3,000円安の話が出ているのが現実。宮崎も悪者になりたくないから価格は表に出さず買い取ると言っている」と、選挙対策として概算金下落に歯止めをかけるよう主張した。

これに呼応したのが平場(非幹部)の議員たちだ。選挙対策を隠すことなく、発言者13人のほぼ全員が強い口調で緊急買入を求めた。例えば上杉謙太郎氏(衆・福島3区)は「財務省が何と言おうが50万tを隔離すべき。それでも米価が下がったときの政策も考えるべきで、営農継続支援金のように米価下落分を10aいくら補填するとか、何かしらの補償がないと我々は選挙を戦えない。だって後援会に農家が3割以上もいるのだから。だから農水省には財務省を気にしないで隔離と新たな支援策をお願いしたい」と農水省に要求した。

これに対し天羽隆政策統括官は、「野上大臣も『需給状況に応じて買入数量を増減させるなど国による需給操作や価格の下支えにつながる政府備蓄米の運用は制度の趣旨にそぐわない』と国会でご答弁いただいている」と緊急買入を改めて強く否定した。

政策統括官としては最後の公式の場となるなか、「まだ(営農計画書の)締切まで2日ある。最後の最後まで滑り込んでやっていただきたいと産地キャラバンでお願いしている。その中でご心配の声をいただくが、今できることは作付済の主食用米を飼料用米に転換すること。共同計算や代理受領の仕組みも作ったので、最後の瞬間までできるようになっている」と声を大にして呼びかけた。

天羽政策統括官の発言を受け、葉梨康弘副大臣は「まだ5月、6月の数字は出てきておらず、全中・全農の要請もそこは考慮されていないもの。緊急買入をやってしまうと、まじめに生産調整に取り組んできた産地の意欲を削ぐ可能性もある」(要旨)と援護射撃し、小野寺委員長も「7月中旬には営農計画の結果が出るはずなので、またその数字を踏まえて来月議論する」とまとめた。

ただ、小野寺委員長は「概算金は9月上旬には出揃う見込みで、我々の選挙に被る。気を引き締めないと衆院選だけではなく、来年の参院選にも影響が出る」「例えばナラシがあると言っても、選挙に向けた地元への説明などで重要なのは概算金。そこはよくわかってもらいたい」(要旨)などと付け加えている。

〈米麦日報2021年6月30日付〉