東京農業大学「稲・コメ・ごはん部会」オンライン開催、低アミ米の業務用普及に向け、多収と加工適性向上の研究進める
東京農業大学総合研究所研究会は10月26日、第11回「稲・コメ・ごはん部会」をオンライン開催した。
今回のテーマは「チルド米飯ニーズと加工製造課題に即応する超多収低アミロース米系統の早期育成」。今後も高まるとされる中食需要に対応する低アミロース米の開発・普及を目指すプロジェクトだ。岩手県農業研究センターが主体となって農研機構や東農大、伊藤忠食糧(株)らと共同で研究を進めており、2020~2022年度の農研機構生研支援センター「イノベーション創出強化研究推進事業」の支援対象にもなっている。最終年度を迎え、今回の部会では各方面の7名から研究成果が報告された。
〈研究背景〉
低アミロース米は低温下で流通しても硬くならずもちもち感が持続することから、CVS(コンビニエンスストア)やSM(スーパーマーケット)の弁当・惣菜に適するとされる。賞味期限延長も実現可能で、食品ロス削減にも貢献する。一方で普及に向けた課題は多く、生産面では一般品種に比べ収量が低いこと、栽培条件によってアミロース含量が左右されやすいことが挙げられる。
加工面では胴割れや炊飯後のべたつきによってロスが多いことが挙げられ、実需にとって扱いづらいというのが現状だ。この背景を踏まえ、育種、加工、消費者・実需者ニーズの3方面から研究を開始。最終目標を「CVS向けチルド米飯用の超多収(玄米単収750kg)低アミロース米系統を5以上育成し、低アミロース米に最適な炊飯・加工技術を開発する」と掲げた。
〈育種〉
岩手県奥州農業改良普及センター・小舘琢磨氏は、低アミロース米の重要課題として「収量が低いこと」を挙げた。岩手県農研センターは低アミロース米の先行研究としてミルキークイーンと同様の遺伝子を持つ「きらほ」を開発。2015年に品種登録をしているが、現状の低アミロース米の単収は490kg(全国平均)と一般品種よりも低いのが課題だった。
そこで、収量確保に向け「きらほ」を用いて窒素施肥量を検証。窒素施肥を増やすと収量とタンパク質含有量が増加し、べたつきも軽減したという結果は得られたが、肥料の使用量が増えることが課題として残った。
育種には通常、交配から世代促進、分析まで6年を要するが、現在は岩手と沖縄の2拠点で栽培することで世代促進を加速、4年に短縮した。そこで生まれた有望品種が「岩手144号」と「岩手147号」だ。岩手の圃場試験では「(岩手)144号」が単収741kg、「147号」が756kgと多収を実現した。
食味官能試験は両者ともに外観に優れ、「144号」は柔らかく粘りが強く、「147号」は硬く粘りが弱い傾向だったものの、総合的な評価は高かった。また、5℃の低温下で24時間チルド保存してから再加熱した際の食味は、「144号」で炊き立てのコシよりも優れていると評価された。小館氏は「今後、炊飯時の水分量なども含め、検証を続ける」とした。
〈加工〉
農研機構食品開発部門の岡留博司氏らの研究では、低アミロース米を冷蔵・冷凍した際の物性の変化について検証した。東日本大震災で被災した岩手県三陸地方で高付加価値商品を作るべく、県産の低アミロース米と鯖を使った冷凍炙り鯖寿司を開発。低温解凍すると、比較対象のひとめに比べ「きらほ」は表面の硬さの変動が小さいことが分かった。また、同じく低アミロース米である「ゆきおとめ」とこまちを使った冷蔵保存実験では、こまちは冷蔵保存期間が長くなるにつれ硬さが増したが、ゆきおとめは上昇が緩やかとなった。
〈消費者・実需者ニーズ〉
実需サイドでありながら研究にも参画する伊藤忠食糧(株)米穀本部米穀サポート室・安藤美紀子氏からは、業務用に適した低アミロース米として「外硬内軟」が挙げられた。特にCVS向けでは大ロットでの洗米や成形工程が入るため、製造過程で割れないような強い米粒が求められ、そこに低アミロース米の食感が加わると最適だという。
また、農研機構東北農業研究センター水田輪作研究領域の安江紘幸氏によると、平成28年産の岩手「きらほ」は、生産者と送料込みの精米1kg当たり330円(60kg換算19,800円)で、直接契約を交わしたという。一方で、消費者を対象にした調査によると、低アミロース米購入価格として最も許容できる価格は5kg当たり1,783円だったとし、「まず地域内で流通させることで、大規模生産が可能となり価格も現実的になるのではないか」とした。
最終目標達成に向け、伊藤忠食糧(株)から高評価を受けた品種の試験栽培を進めるとともに「とにかくCVSで使用されるには生産ロットが足りず、品種登録されても一定期間が経過しないと導入されない。今は消費者に食べてもらい、認知度を高めていくことが現実的ではないか」とした。
〈米麦日報2022年10月28日付〉