東京農業大学「稲・コメ・ごはん部会」オンライン開催、高鉄分米はメカニズム解析、「育種加速して品種登録目指す」
東京農業大学総合研究所は2月24日、第12回「稲・コメ・ごはん部会」をオンライン開催した。今回のテーマは「新機能コメ開発の最前線」。東農大が研究を進めている高タンパク質米や鉄分強化米の進捗などが報告された。
【いまなぜ、高タンパク質米の育種なのか?=東農大応用生物科学部農芸化学科・山本祐司教授】
▽背景
=近年、社会的な背景として高齢者のフレイルが課題となっており、食事からの積極的なタンパク質摂取が重要となっている。米は小麦に比べてアミノ酸が豊富に含まれていることから、タンパク源としての米の品種開発が社会問題解決にも繋がるとする。
▽研究紹介
=まずは玄米の機能性について改めて検証するため、過食ラットと正常ラットのそれぞれにコーンスターチ・白米・玄米を10週間摂取させる実験を行った。その結果、白米と玄米では非アルコール性脂肪肝(NAFLD)の予防効果が認められ、その予防効果をもたらす成分として挙がったのが「米糠などの油脂成分に多く含まれている機能性成分」だった。
一方、白米にも同様の効果が認められたことから、米糠以外に含まれる機能性成分も示唆された。ラットをさらに詳しく調べてみると、脂肪分解などに必要な酵素(タンパク質)が増加していることも分かった。つまり、米由来の脂溶性成分とタンパク質、どちらもNAFLDの予防に有効である可能性が出てきたことになる。さらに米のタンパク質を抽出した分解物を肥満ラットに28日間与える実験を行った。その結果体重が有意に低下し、フン中の中性脂肪が増加するなど体内の脂肪減少作用が見られた。
▽今後の展開
=日本の米は低タンパク質ほど良食味とされており、高タンパク質米は未開拓の領域だ。研究計画のうち、まず育種にはタンパク質含量が15%と高い野生イネを用いる。野生イネは栽培特性が「極めて不良」という弱点があるため、飼料用米品種でタンパク質含量が12%と比較的高い「ホシアオバ」を交配する計画。交配を繰り返し、高タンパク質となる個体を選抜していく。
3年目以降は、タンパク質の内容にも着目。米のタンパク質は、難分解性・難吸収性で食味が良くないとされるプロラミンを中心としたものと、胃液で容易に分解できるグロブリン・グルテリンを中心にしたものの2つに分類される。「野生イネと交配することでどちらかに偏るのではなく、両方の増量が期待できる」ことのことだ。また、高タンパク質米になるメカニズムの解析も同時に進める。そして育種後は、機能性の研究とパックご飯や代替肉など新たな活用方法も模索していく。
【コメ品種の特異的な免疫制御機能=東京医科歯科大学難治疾患研究所 未病制御学・安達貴弘准教授】
▽背景
=病気を発症する前の小さな異常(前未病・超早期未病)の段階で予防・治療することが、その後の生活習慣病や認知症を防ぐことに繋がる。未病の予防・治療は医薬品やサプリメントに頼らず食品でできる可能性もあり、特に米や小麦などの主食に機能性があれば最適だと考えられる。これまでの研究ではコシヒカリ系の品種は免疫を活性化する一方、免疫を制御する品種もあることを発見。「RiceAid Project」というプロジェクトを立ち上げ、各地の銘柄や世界中に品種について機能性を明らかにし、付加価値創造を目指す。
▽研究紹介
=北海道中央農試が1984年に開発した品種「ゆきひかり」には、これまでもアレルギー反応の改善効果を認める臨床結果があった。ただ2010年以降科学的な研究成果の報告はなかったため、改めて検証。きらら397と比較すると、ゆきひかりは炎症などの免疫反応を抑えることが分かった。安達氏は米の免疫機能性の解析が「アレルギーのみならず、生活習慣病や認知症への効果も期待される」などと今後への期待を述べた。
【鉄分を増強したイネ品種の開発とその応用=東農大応用生物科学部農芸化学科・齋藤彰宏教授】
▽背景
=世界の鉄欠乏患者は20億人とされており、欧米では鉄分が豊富な全粒粉パンやシリアルなど、主食から摂取する動きが進んでいる。同様に、日本ならば米に鉄分を付与できないかという観点から研究が始まった。
▽進捗
=イネの鉄吸収のメカニズムは複雑で、土壌に鉄分を投入したり葉に散布したりするのでは大して量を増やすことができなかった。そこで交配に切り替え、まずは元々鉄分やマンガンが多く含まれている「台中65号」と紫黒米もち品種である「朝紫」を交配。
これを繰り返し「うるち⇔もち」「白米⇔紫黒米」などの特性を組み合わせたいくつかのパターンを作った。その中には玄米と精米のいずれも、朝紫より鉄分が顕著に増加した世代も見られた。また、鉄強化米を玄米で茶椀一杯(180g)食べた場合、約2mgの鉄を摂取できるというデータも得られた(日本食品成分表の玄米は1.1mg)。
一方、食味は玄米ではコシ同等という結果も出たが、「やはり精米だと食べ慣れた米とはかなりかけ離れている。これまでは栄養価を高めることに主軸を置いていたが、日本人の嗜好に合った品種も目指したい」とする。
また、黒米型・もち米型など品種の特性によっては、日本酒や米粉パンなど食べやすい形での製品化も視野に入れる。同時に、稲の鉄分の吸収を促進するメカニズムも解析。遺伝子変異によって鉄分を感知するタンパク質が作られなくなり、吸収促進に繋がることが分かった。「原因遺伝子が分かったため、効率の良い選抜が可能になる」。
▽今後の展開
=育種を4~5年続けたのち、2年間の圃場試験を経て品種登録を目指す。また、鉄含量を高くするための肥培管理や収穫適期のマニュアル化、普及に向けた食育活動などにも取り組む。「イネ品種の確立は私立大学で初の試み。農大全体のプロジェクトとして進めていく」とのことだ。
〈米麦日報2023年3月8日付〉