AKOMEYA TOKYO“米屋であって米屋でない”日本の文化・伝統と消費者つなげ「11万回のおいしい」届ける/山本浩丈代表取締役社長インタビュー
首都圏を中心に展開するライフスタイルショップ「AKOMEYA TOKYO(アコメヤ トウキョウ、以下AKOMEYA)」。
“米屋であって米屋でない”をコンセプトに、こだわりの商品を展開している。2022年1月には「(株)AKOMEYA TOKYO」として法人化し、山本浩丈氏が社長に就いた。今回はAKOMEYAの商品展開や今後目指す姿について、山本社長に訊いた。
――まずはAKOMEYA TOKYOのこれまでの歩みを教えてください。
創業は10年前の2013年、「日本の文化を東京から発信していこう」という想いで初代社長が1号店となる銀座店を立ち上げました。
代表的な日本の文化といえばやはり食文化であり、食文化の中心には米があります。そしてごはんを最も豊かに表現できる場が食卓という考えから、食品や食卓周りへフォーカスした体験型店舗をコンセプトに、飲食店も併設しました。初代社長はそうしたブランディングに長けており、AKOMEYAの礎を築き上げた方です。
ただ我々のような食品物販事業は、例えばアパレルなどとは異なり、粗利が低いことが宿命であり、規模の拡大が必要になります。2代目の事業責任者はバイヤーとしての経験が豊富でしたので、カテゴリーの拡大などを通じて、初代の事業責任者が創り上げた“AKOMEYA ブランド”を大きくすることに挑戦しました。
――そして3年前、3代目の山本社長にバトンが渡ったのですね。山本社長のそれまでの経歴は。
新卒では(株)ダイエーに入社しました。当時はダイエーが流通革命を起こし、勢いに乗っていた時代でしたので、物価の高い日本から「安くて良いものを提供すること」が当たり前になる時代の変化を肌で感じることができましたね。ただそこからバブル崩壊、阪神淡路大震災と続き、消費者が次第に“心の豊かさ”を求めるようになってきました。その時点で、ある意味ではダイエーが目指した基本理念「よい品をどんどん安く、より豊かな社会を」は一定の目的を果たしたと感じました。
私はそのタイミングで当時サザビーリーググループだったスターバックスに転職し、人と人とを繋げる心からの接客の大切さを学びました。その後はコンサル会社を経験してからサザビーリーグに戻り、雑貨店のフライングタイガーコペンハーゲンの日本出店などに関わってきました。
外資系企業などと仕事を共にして感じたのは、時代の流れによってニーズや課題は変化し、この先の日本の存在感を高めていくには、海外に向けて日本の良さをアピールすることが大切だということです。スターバックスやフライングタイガーのように海外の文化を日本に呼び込み、その良さを取り入れることも必要ではありますが、最近の話題でいうと野球の大谷翔平選手のように、日本の力を外へ外へ発信していくことが求められるのではないでしょうか。
――社長に就任してからの目標は。
これまでの経験から学んだ想いもあり、まず実現したかったのが海外展開です。サザビーリーグの数ある事業の中でも、AKOMEYAは唯一の食品物販事業ですし、「和食文化を世界に発信していけるのはAKOMEYAしかいない!」と考えていました。
ただ、AKOMEYA事業部に異動し、準備を進め始めたところでコロナ禍が起きてしまったのです。こうなるともう海外は一旦ストップせざるを得ません。さらに、国内でAKOMEYAを継続していけるかどうかという、非常に大きな決断を迫られました。それくらいコロナ禍は大きなインパクトがありましたね。
――そこで継続すると決めたのですね。
当時は本当に不安でした。ただ、私自身もAKOMEYAの大ファンで、店舗を回ってみるとスタッフもAKOMEYAに愛着を持っていることが非常によく分かりました。商品や人材などのテクニカルな面から考えれば、どうにかコロナ禍を乗り切れるだろうと判断しましたが、より体制を強固にするためには迅速な判断と行動が要求されます。
しかしながらサザビーリーグ唯一の食品物販事業ということもあって、迅速に判断ができる十分な知見はありませんでした。AKOMEYAを存続・発展させるためには、食品物販事業領域の経験が豊かなパートナーと組むことが肝要ということになり、1年半ほどかけてパートナー企業を探しました。最終的に食品物販事業に知見のある(株)丸の内キャピタルとタッグを組み、「(株)AKOMEYA TOKYO」として再スタートを切った形です。
――法人化して1年が経ちましたがどのような取り組みを進めましたか。
将来的な海外展開を志向しつつも、まずは2026年度までに国内店舗を50店舗に拡大する計画を立てました。現在の店舗数は4月に開店が決定している店舗を合わせて16店舗ですので、そう簡単に達成できる数字ではありません。そのため、目標達成に向けた「ミッション」「ビジョン」「バリュー」(以下、MVV)を明文化し、具体的なプロセスを示しました。ミッションは創業当時の想いと変わらず「日本の食の可能性を世界に広げる」こと、そのためのバリューとして「誠実さ・思いやり・探求心・向上心・ポジティブ思考・情熱的」という6つの価値観を重視しています。
そして目指すビジョンは「食のカタリスト」として「世界に誇れる『おいしい』の循環型社会」を作り上げていくことです。カタリスト(catalyst)は英語で触媒を意味し、食において生産者と消費者を結ぶ存在となり、化学反応を起こしていく――といった想いを込めています。同時に“語る人”という意味も持ち、作り手と消費者を繋いで発信していくところまでが我々の使命だと感じています。
次に取り組んだのが、商品のヒエラルキー化です。法人化するまでのAKOMEYAでは、食品に拘らず幅広いカテゴリーを展開してきましたが、AKOMEYAのロイヤルカスタマーのプロファイル(属性)を改めて調査したところ、食に関心の高いオピニオンリーダーのような方が多いことが分かりました。「やはり食にフォーカスするべき」という考えに至り、展開カテゴリーを整理した上で、商品層を「伝統的で価格帯も高めの最高の逸品」「AKOMEYAのオリジナリティを表現した個性的な逸品」「日常使いできる価格帯の逸品」――の3つに分類し、それぞれの品揃えを強化していきました。
――個性的な商品とは。
例えば日本の伝統的な食文化を継承する商品に込める思いや、開発背景がはっきりとしているものを指します。具体的な例としては、2022年に販売した木桶味噌ですね。木桶文化は職人不足によって絶滅の危機に晒されており、10年前の時点で木桶の製造会社は日本で1社しか残されていませんでした。このままではまずいという想いから、香川・小豆島では2012年から小豆島の醤油メーカー「ヤマロク醤油」を中心に「木桶職人復活プロジェクト」が発足しました。
我々はこれに参画し、小豆島で製造したオリジナルの木桶を岡山県の老舗醸造メーカー「河野酢味噌製造工場」に運び、そこで味噌の醸造をお願いしたのです。広く発信して応援していただくためにもクラウドファンディングも実施して商品化しました。店舗販売は400gで約1188円と比較的高価格でしたが、即完売となりました。
やはり単純に「もの」を買っているわけではなく、商品の背景にある「ストーリー」を応援して購入していただいていることも実感しましたね。我々が大事にするMVVを社内で徹底的に共有し、それを具体的な商品としてアウトプットする――これに法人化1年目で取り組めたのは良かったと思っています。
――AKOMEYAにとって、米はどのような位置づけに。
AKOMEYAの名前の由来は「米屋であって米屋でない」というコンセプトから来ています。米は日本の食文化を世界に発信していく上で欠かせないものですので、商品展開の中核を担う存在だと考えています。
米の主力商品は島根・飯南町産のコシヒカリです。この町で生産される米の稲わらは出雲大社のしめ縄に使用されているので、しめ縄の産地ともいえますね。多くの生産者は中山間地で家族経営をしており、AKOMEYAの飯南町産コシヒカリは1つの生産組合から独占で仕入れています。ただ生産者の平均年齢は74歳と高齢化が進み、10年後はどうなっているのか分かりません。米の生産者が離農して地域の存続が難しくなれば、出雲大社のしめ縄だって存続が危ぶまれるかもしれません。
日本の田園風景・伝統を守り、我々のビジネスも続けていくために、「飯南町産のコシヒカリを必要としています」という強いコミットメントを結び、4月には飯南町と連携協定を締結する運びとなりました。連携を結ぶことがゴールではなく、ここからスタートですので、木桶味噌プロジェクトのような取り組みをモデルに、スピード感を持って取り組んでいきます。
――米の調達について。
東京の卸であるライスブラザーズ(株)に仕入を一括してお願いし、精米・袋詰めは新潟の堀井米店が担っています。AKOMEYA立ち上げ当初の米の選定はサザビーリーグの外食店「KIHACHI」の創業者である通称「ムッシュ」と呼ばれる熊谷喜八シェフが食べ比べをしてセレクトしました。その後は食味ランキングの特A取得品種や、もっちり・あっさりといった食味の違いなどでバリュエーションを増やしてきました。関係各社の尽力があってのAKOMEYAブランドですし、今後もこの形は継続していきます。また、我々のミッション達成に向けた新たな連携などの可能性も模索していければと考えています。
――今後、店舗拡大はどのような地域で。
我々のロイヤルカスタマーは関係県(=定住や観光ではないがその地域に関係している地域)が非常に多く、一般的な東京都民の2.2県に比べて9.5県にものぼります。それだけ食への関心が高く、応援消費を望んでいることが数字からも分かりますし、そういった方々の出現率はやはり3大都市圏が多いと見ています。AKOMEYAで応援消費をしていただき、地域の経済活性化に繋げる――こうした我々の目指す姿の達成に向け、数は大いに越したことはありませんし、人材確保の観点からも出店戦略は3大都市圏に主軸を置いていく計画です。
――最後に、まだAKOMEYAに訪れたことのない方に向けてアピールを。
人は一生のうち、「いただきます」を11万回言うとされています。日々忙しく過ごすなかで、当然「いただきます」をないがしろにしてしまうことだってあるかと思いますが、我々は“11万回のおいしい輪をお届けします”と約束しています。AKOMEYA に来ると「いただきます」の精神を大事に思える――そんな商品を今後も展開して参ります。
――ありがとうございました。
〈米麦日報2023年4月18日付〉