【山形米卸「アスク」ルポ(前篇)】創業28年、卸に留まらない事業展開、主食用米は首都圏外食店中心、酒米は全国200酒造と取引
(株)アスク(河合克行代表)は、JR山形駅から車を30分ほど走らせた山形市内に本社を構える米卸。
創業28年と業界の中では比較的歴史が浅いが、酒米と主食用米を事業の柱に、酒米品種の自社育成、麹を使用した自社商品開発やインドでのジャポニカ米生産など、事業の幅は米卸売に留まらない。前篇では、まず主食用米と酒米の概要を紹介する。(取材日=5月30日)
〈主食用は業務用米中心、小回りの利く配送が強み〉
2023年5月期の売上高は約60億円、令和4年産米の総取扱量は約2万8000玄米t。調達はJA系統を中心に、生産者との直接契約を結ぶ玉もある。
主食用の精米販売のほとんどを占めるのが業務用だ。桜井努専務によると「取引先は大ロットで使うような大手外食ではなく、小ロットの個人経営店。山形の本社工場で精米し、1.5kgや3kgなど顧客のニーズに合わせた米袋に詰めてお届けする。前日の夕方までにオーダーをいただければ翌日の午前中には配達する」。地元の米穀小売店に影響が及ばないよう販売エリアの9割が関東近郊の首都圏で、取引先は約2,000店舗にものぼる。
また、好調なのがふるさと納税の返礼品の取扱で、同社製品の米や果物の売上高は年間3億円ほどにのぼる。「2021年から2022年にかけて金額ベースで倍以上に伸びた。物価高騰の影響を受け、消費者が生活必需品を選ぶようになっているのを肌で感じる」とのことだ。
〈創業は酒米から、全国200酒造メーカーの酒米搗精(とうせい)手掛ける〉
創業当初は酒米事業一本でスタート、翌々年からは酒造メーカーと共同で自社の酒米品種育種を開始した。現在、全国でアスクのみが取り扱う酒米として「山酒4号(玉苗)」「羽州誉」「龍の落とし子」「酒未来」の4品種があり、県内で生産者と直接契約を交わし栽培している。酒米は県内のみならず、JA系統をメインに全国から調達。取扱品種は約50銘柄、取引する酒造メーカーは全国200蔵にものぼる。
酒米事業担当の船越健太氏はコロナ禍を「酒米の需要が大きく減少し、産地が酒米を酒造用以外の用途に転換せざるを得ない状況にもなっていた」と振り返る。一方、現状については「各酒造メーカーはコロナ禍で在庫をあまり持たない造りをしていたが、日本酒の流通が回復傾向に向かい、令和4年産ではほどんどの銘柄が不足した。とはいえ、コロナ禍で減少した作付面積を大幅に回復させることは難しく、令和5年産もギリギリになるだろう」とした。
〈酒米事業の強みは
“産地と共に品質向上に取り組む”〉
一方、「コロナ禍でも売れるものはしっかり売れている」と船越氏は話す。2023年5月に開催された「全国新酒鑑評会」では、山形県内の計20の酒造メーカーが金賞を受賞、全国で最多の金賞を獲得するなど、着実にレベルを上げていることが分かる。
山形の日本酒発展をバックアップするアスクの強みは“産地と連携して品質向上にこだわる”という点だ。多数の生産者・酒造メーカーとの取引の中で、搗精した酒米のデータを出荷時に渡すことはもちろん、生産者にもフィードバックするという。桜井専務は「生産者が誇りを持って作ってくれた米の品質をデータとしてお返しすることで、生産者が自分の米を客観視でき、翌年以降のブラッシュアップに活かせる。
令和4年産では北海道から岡山まで約600点ものサンプルが集まり、1つ1つデータを積み上げた。山形のみならず全国の日本酒に微力ながら貢献できているのではないか」と話す。
〈米麦日報2023年6月16日付〉