【スポット解説】改正特定農産加工法、小麦・大豆の調達安定化支援を新設、国産小麦・米粉切替、サイロ新設、設備導入など幅広く支援
今国会で一部改正法が成立した「特定農産加工法」。輸入農産物の関税引き下げなどの影響を受ける食品加工業者を金融・税制面で支援する法律だが、今回新たに小麦・大豆をメインの原材料に使用している事業者のための調達安定化支援が設けられた。
「輸入小麦・大豆の価格水準が上昇・高止まりしている」ことを受けたもので、製麺・製パン・製粉・冷食製造――など、本紙・米麦日報関連の多くの業種が対象となる。7月1日に施行を控える中、農林水産省新事業・食品産業部食品製造課に新たな支援措置の概要、具体的な活用方法などを訊いた。制度の詳細については農林水産省公式ウェブサイトも参照。
〈特定農産加工法とは?〉
農産加工品の輸入関税引き下げで影響を受ける食品加工業者の経営改善支援を目的に、1989年に制定された。事業者は日本公庫の長期低利融資など、金融面・税制面の支援を受けられる。この支援措置は改正法の施行後も引き続き利用することが可能だ。
なお、同法は制定以来5年の延長を計6回繰り返しており、今回の改正でも5年の延長を行った(現行法の適用期限は今月末)。
〈新設・原材料の調達安定化支援〉
◆法制化の狙い
農水省はこれまでも、輸入原材料の価格上昇を受け、各種補助事業で調達安定化支援を展開してきた。そうした中、「輸入小麦・大豆の価格水準が上昇・高止まりしており、農産加工業者の経営環境は厳しさを増している」として今回の法制化に至った。「事業者に長期的観点から計画を立てていただくことができ、支援する側も長い目で支援することができる」(農水省)。
◆対象になる事業者は?
「小麦、大豆またはこれらの一次加工品(小麦粉、煮豆など)を主要な原材料として使用する農産加工業者」が対象だ。米麦関連の製粉・二次加工メーカーの多くが当てはまる。
なお、“主要な原材料”と認められるには、小麦、大豆やその一次加工品が製品の総重量のうちおおむね5割を占める必要がある。つまり、この表に挙がっていない事業者でも条件を満たせばOK。食品メーカー以外に、スーパーのバックヤードで惣菜を製造・販売する場合なども条件を満たせば対象になるとのことだ。
◆どんな取り組みを支援?
▽原材料の生産地の変更
▽代替原材料の使用
▽原材料の効率的な使用(ロス改善・歩留まり向上など)
▽新商品または新技術の研究開発・利用(上記3つのいずれかとセットで行う取り組み)
▽原材料の保管
――などを支援する。
5年を目安に取り組み計画を作成し、農林水産大臣による承認が得られれば、日本公庫による長期低利融資(中小事業者限定)、事業所税の課税基準の特例といった措置を受けることができる。
例えば、麺製造事業者が新たに国産小麦を使用するにあたり1機2,000万円の保管庫を導入する――という場合、日本公庫の融資限度額(負担額の80%)に基づき、2,000万円×80%=1,600万円の融資が可能だ。なお、諸々の条件があるため具体的な貸付利率などは日本公庫へ、事業所税の特例については市役所などの担当窓口まで問い合わせのこと。
◆具体的な活用事例は?
農水省が想定する事例のうち、小麦関連を紹介する。
〈1〉新商品の開発・製造
▽パン製造事業者が外国産小麦を使用した食パンをリニューアルし、国産小麦100%の新商品を製造するために設備・機器を導入。
▽製粉事業者が、外国産小麦の一部を国産米粉に切り替えるために精米機などを導入。
▽パン製造事業者が、外国産小麦使用の食パンをリニューアルし、国産米粉を使用した新商品を製造するため、設備・機器を導入。
〈2〉ロスの改善
▽菓子製造事業者が、製造過程で発生するロスを削減するため、生産ラインを完全機械化。
〈3〉保管庫の追加
▽麺製造事業者が新たに国産小麦を使用するにあたり、サイロを追加で導入。
▽パン製造事業者が新たに国産米粉を使用するにあたり、原料の保管庫を追加で導入。
【問い合わせ先】
融資の活用を検討したい場合は、まず近くの日本公庫支店へ問い合わせを。制度全般について知りたい場合は食品製造課(電話03-6744-2060)に問い合わせるか、ウェブサイトを参照のこと。
農水省の担当者は「消費者の国産ニーズの高まりに加え、事業者側からも国産原材料を利用したいという声を伺っている。国産小麦・大豆には生産量や品質の安定といった課題もあるが、『可能であればどんどん利用していきたい』という思いも伺っている。米粉も含め、国産を利用したいという方に、ぜひこの制度の活用を検討していただきたい」などとした。
◆農林水産省「特定農産加工業経営改善等臨時措置法」特設ページ
〈米麦日報2024年6月11日付〉