フィリピンへの「水田メタン削減」技術提供、日本のクレジットに
〈新たなビジネスチャンスへ、既にクボタ・フェイガー・GC社は先行〉
農林水産省は6月28日、水田メタン削減による「二国間クレジット制度(JCM)」について、フィリピンと大筋合意した。脱炭素のノウハウを持つ日本企業にとっては新たなビジネスチャンスとなる可能性があり、近い将来、ベトナムとも同様の合意が得られる見通しだ。
【JCMって何?】
JCMとは、先進国が途上国の温室効果ガス(GHG)削減プロジェクトに脱炭素技術や製品、システム、サービス、インフラなどを支援し、GHG削減によって生み出されたクレジットの一部を貢献度に応じて分配する制度のことだ。JCMの細かいスキームはパリ協定に基づいており、日本の「パートナー国」は現在29か国ある。
【今回の仕組み】
農水省によると、パートナー国(フィリピン)のプロジェクトに参加する日本の農機メーカーやスタートアップが資金や技術をパートナー国に提供し、現地の農業者団体などを通じて(フィリピンの)小規模農家がAWD(間断灌水)を実施。その効果を日本側の関係者もモニタリングしながら水田メタンの排出削減を図り、生み出されたクレジットはいったん日本側が獲得。実需者へのクレジット売却益の一部をフィリピンに還元することで現地農家の収入増にも繋げるというスキームだ。
なお、イメージ図にある「NDC」とは、パリ協定で各国が負っているGHG排出削減目標のこと。
【今後は】
両国の合同委員会(プロジェクト事務局)がこの案を承認したのち、各事業者がプロジェクトに登録。委員会はプロジェクトを管理しながら進捗に即してクレジット発行量を決定・発行する。なお、「承認された方法論に即したものであれば、過去に遡ってプロジェクト登録・クレジット発行も可能」とのことだ。
【補足情報】
日本では2023年3月、J-クレジット制度で「水稲栽培による中干し期間の延長」が方法論として認められたが、水田作が主流のアジア各国でも、水田から発生するメタンを如何に削減するかは大きな課題となっている。ただ、これまで水田メタンに関するJCMプロジェクトはスイス&ガーナの1件しかなく、実際のクレジット発行はいまだ行われていない状況だ。
今回のスキームはアジア開発銀行を中心に、日本の農水省やフィリピン・ベトナムなどアジア各国の当局、関係機関などが議論を進めてきた成果の一部だ。今回は先んじてフィリピンの方法論がまとまったが、ベトナムとの協議も進んでいるという。
AWDはメタン削減だけではなく収量も2割前後増加することが実証されており、「本方法論の広がりによるアジアでのGHG削減へのインパクトは大」と農水省は期待を寄せる。既に(株)クボタや(株)フェイガー、Green Carbon(株)がフィリピンやベトナムでの水田メタン削減プロジェクトを進めており、日本の企業連合が世界を舞台にプロジェクトを手掛けることで、新たなビジネスが展開される可能性は高いだろう。
〈米麦日報2024年7月2日付〉