〈シグナル〉“こっそり”がいい?

 
日本人の食塩摂取量は、平均9.9gと諸外国に比べ多い。食塩の摂りすぎは高血圧、脳卒中や心臓病といった循環器病発症のリスクを高めることから、減塩志向が高まり、減塩タイプの加工食品も増えてきた。塩分摂取量を1食1g減らすと、血圧が0.5〜1mmHg下がるとされている。減塩で血圧を下げるのは地道な道のりではある。
 
「かるしおレシピ」を提唱する国立循環器病研究センター主催のおいしい減塩食レシピコンテスト「第4回S‐1g大会」を12月に取材した。特別講演の中で紹介されたイギリスの減塩政策が興味深かったのだが、後日調べると成功事例として有名だった。
 
ポイントは、消費者に気づかれず“こっそり”ゆっくり進めたこと。まず、イギリス食品基準庁が、塩分摂取源として多いことがわかった加工食品の中でもパンをターゲットに、国内のパン製造業者に減塩を強く働きかけた。
 
当初、多くのメーカーは塩分量を減らすことで味が変わり売り上げが減ることを懸念。医学や栄養学の専門家らで組織された「CASH」(塩と健康に関する国民会議)という団体が発案した段階的にゆっくり減塩を進める方法に合意し、実行に至った。
 
人間の味覚は中長期的な味の変化に鈍感なため、うまくいった。03年〜11年で塩分摂取量は9.5gから8.1gにまで減少。脳卒中・虚血性心疾患死亡者は年間約9000人減少、医療費は年間約2300億円削減できたという。
 
加工食品の可能性のひとつをみた。
 
〈食品産業新聞 2020年1月20日付より〉