〈シグナル〉デフレ脱却の一里塚に

 
多くの食品の価格が上昇している。原料穀物の相場高騰、原油高も含めた物流費の上昇、包材原料の上昇、人件費の上昇等、複数の要因が積み上がった結果として、「個別企業の努力だけではコストを吸収できない」状態に陥っている。
 
報道では「国民の生活に影響を与える」論調が目立つが、食品を今後とも安定的・持続的に供給するためには、消費者も事業者もコスト上昇環境を受け入れていくしか道はないように思う。
 
2021年に入って、日本の産業界はSDGsの考え方を受け入れた持続性を経営に取り入れるようになった。デフレ華やかなりし頃なら、「より安い食品」を求めて取引を見直す動きが普通だったが、皆が「安値」を求めた結果がデフレの系譜でもある。
 
デフレ脱却が叫ばれながら、30年以上にもわたって、脱却は実現できていない。値上げした業者を切り、安値納入業者に切り替えて「自社は利益を確保」しても、切られた既存業者、安値納入業者も苦しめる。およそSDGs的ではない。報道も、ただ値上げを批判するだけではよろしくない。値上がる原因・要因は何かと、より詳細に報道すべきだ。
 
現在の穀物相場は、2008年の世界的急騰時に匹敵すると言われている。その時、輸入小麦の政府売渡価格は一気に30%以上も引き上げとなった。今後も相場は上がる可能性が高い。今回の製品値上げをデフレ脱却の一里塚と捉える発想の転換も必要だ。
  
〈食品産業新聞 2021年11月15日付より〉