〈新春インタビュー2018〉カルビー代表取締役社長兼COO・伊藤秀二氏 食品産業を成長産業へ
〈国産原料による商品供給が理想〉
――サステナビリティに対するお考えを
持続可能性は、ビジネス上も社会全体にとっても正しいテーマだ。ビジネスは単年度の業績で結果が出てしまうが、長期をにらみ、持続可能な企業へ向けての戦略やあり方を踏まえて着実に取り組まなければ、単年度の事業も上手くいかないと感じている。
我々(伊藤社長と松本晃会長)が就任した2009年以降、当社の業績は右肩上がりの成長を続けているが、年々その伸びは鈍化している。今年は馬鈴薯不足という短期的な要因もあるが、曲線がゆるやかになるのは努力が足りないというよりも、長期的な流れの中で取り組まなければならない課題に対処できていないということがベースにある。日本企業の中でも菓子や食品企業がその部分をどう考えるのか、本質的な問題に直面していると考える。
――環境問題に対しては
CO2の排出量の削減にも取り組んでいるが、業績が伸びて生産量が増えれば全体の排出量は増えてしまう。だが、帯広工場の木質バイオマスボイラーや宇都宮工場のガスコージェネレーション(熱電併給)システムの導入など、工場単位での対策は大幅なCO2削減につながる。
持続可能性については、日本だけでなくグローバルな視点で考えるべきだ。日本では農業を含め食品加工業は減っていき、将来有望でないとの見方は多いが、地球規模では人口が増えるため、一次産業やそれに付随する産業は増えていくと予測できる。
したがって、日本国内では人口が減ったり食品ロスが出たりという問題はあるものの、一時しのぎ的なヒット商品ではなく、根源的に人間の健康に役立つとともに楽しさを提供すること、さらに農業も含めて食品産業が成長産業へと発展していくことが重要だ。
――今後の商品について
ポテト商品には国産の食材を極力使いたい。現状、日本が輸入している100万t超分の冷凍、フレーク、生食などの馬鈴薯を日本国内で作れば、価格競争力も品質面でも十分に戦うことができ、農業自体も発展していける。どの作物を作れば農業を継続できるのかという発想が必要だ。国内で相応の需要がある限り、食品産業全体の労働力確保にもつながっていく。国産原料を使って商品を供給できることが理想だが、どう実現していくかは国全体にとっても重要なことではないか。
どの地区でどう生活してどう歳を重ねるのかを考え、産業全体を上手く循環させ、豊かな生活が送れる仕組みを考えなければならない。当社のポテトチップス産業は、従来の日本にはなかったもの。それに対し、契約栽培の仕組みを取り入れて馬鈴薯の安定供給に努めるとともに、生産者の生活や地域に貢献するという循環をつくってきた。
〈ポテチで生産者と地域に貢献〉
――六次産業化について
昨年から取り組んでいる「ラブジャパン」は、47都道府県の地元の味をポテトチップスで再現する企画だ。中には、地元産の食材を使ってほしいという声もあり、実際に5県ほど採用している。バリューチェーンをより深化させれば、その食材を使って商品を作ることができるようになり、産業化により新たな需要が生まれ、市場が創られることもある。
輸入を否定するつもりはないが、国内でも努力を重ね、安くておいしい原料ができれば、新たな産業が生まれる可能性は高い。日本は将来的に人口が減っていくという側面だけを見れば厳しいが、例えば訪日外国人観光客は増えている。
当社は国内事業で、地域事業部制をとっている。例えば、北海道の人口は500万人から年々減る一方、観光客はどんどん増えている。この状況に対して始めたのが「じゃがポックル」だ。北海道産原料を使った商品を道内で売り、現地で収益を上げるモデルケースになっている。このような発想の転換を今後は追求していかなければならない。
――原料馬鈴薯の新品種が誕生しました
グループのカルビーポテトが開発した「ぽろしり」は、17年産が約1万2000tとなった。3年目でここまで生産量が増えたのは、作りたいと思う生産者が多いからだ。絶対的に必要なシストセンチュウ(病害虫)への抵抗性があり、ポテトチップス用の規格に適した品質に育つ可能性が高いことも支持されている理由だろう。
――コスト増への対応は
当社は当面、営業利益率15%を目指しており、16年には11%を超えることができた。達成へ向けては、様々なコストを吸収していく努力が求められる。その場合、いかに生産性を上げるか、上質なものを提供していくかを考える必要があるが、ここで上質なものを高価格とするならば、我々には日常的な商品をプレミアム化する考えはない。プレミアム市場には「じゃがポックル」のように原料を厳選し、作り方にもこだわり、マス市場での展開が難しい商品を提案するから売れる。対してマス向けの商品は、安いけど美味しい、だから成り立っている。
――昨年を振り返って
全体の計画値でみれば中間で下方修正した。持続可能性という言葉を使えば、ビジネス上の長期的な課題への対応が遅れていた。個別では馬鈴薯不足やフルグラの中国報道などが影響したことは事実だが、原料の安定供給は長期的な課題で、そこが継続できていなかった。中国についてもイレギュラーな形(個人輸入)で売れていたのに、正式な対応が遅れていたともいえる。長期的にやらなければならないことをしっかりとやり、この反省を今後に生かしていく。
〈食品産業新聞 2018年1月1日付より〉