J-オイルミルズ、2019年は翌年の「ジャンプ」につなげる「ステップ」の年、自立的成長に向けて大きく踏み出す/八馬史尚社長
製油業界としては搾油採算が良好で、前年から収益が好転したことに加え、さまざまなコストが上昇傾向にある中で、食用油価格の維持に努めたことが業績に寄与した。
また、家庭用油の販売は金額ベースで前年を上回り、業務用油は販売量・販売金額共に堅調に推移したとみている。ただ昨年は台風・地震など自然災害の影響もあり、エリアによって実績に差が生まれた側面はあるのではないか。
〈高付加価値品の販売で手応え、独自の技術・価値が評価される場面増える〉
その中で当社は、高付加価値品の販売についてはかなり手応えを感じる一年だった。前半は、オリーブ油の原料コストは厳しかったが、販売施策では一定の成果を得られた。業務用油市場でも「長調得徳」を10年ぶりにリニューアルし、さらに調味油シリーズ「J―OILPRO」の取り組みについても、すぐに成果は出ないがその分、お客様にきちんと価値を理解していただければ、続けて使っていただける。当社独自の技術・価値を評価いただける場面が増えたということでは、大きな成果が得られた。
これは業務用マーガリンでも同様で、「グランマスター」シリーズなど独自価値の提案に対して、お客様のご理解をいただく場面が増えてきたと思っている。
ただコスト面では、搾油採算は比較的良好だったが、加工油脂やスターチは原料・生産コストの上昇を十分吸収できなかったことは反省材料としてある。
また、今年度から油脂事業、マーガリンや粉末油脂などを扱う油脂加工品事業、スターチやケミカル、ファイン事業を担う食品・ファイン事業の、3事業セグメント体制に変更し、それに伴う組織変更を行った。
それと合わせて、昨年7月には複合型プレゼンテーション施設として「おいしさデザイン工房」を東京・八丁堀にオープンした。想定以上のお客様にご利用いただき、期待していた以上に、お客様とのコミュニケーションが深まり、さまざまな化学反応が起きていると感じている。
現在はBtoBのお客様と開発陣が主に活用しており、製菓製パン業界の勉強会なども開いているが、その面でネットワークの構築ができ始めていることは、大きな成果と思っている。
これからは、さらにもう一段広げて、個人店の職人・シェフの方々や、さらには生活者のところまで目線をどう伸ばしていくのか検討している。また中長期的な課題となるが、プロの調理人のスキルといったアートの世界と、食品科学・工業生産のサイエンスの世界を掛け算により、具体的な形にしていくことを、「おいしさデザイン工房」は目指して設計しており、取り組み方は変わってきている。
――中期経営計画(17~20年度)の進捗状況はいかがですか。
成長戦略については高付加価値品への注力がテーマだが、お客様の反応は少しずつ出てきている。ソリューション事業部も、「おいしさデザイン工房」の活用などを通じて、お客様との連携が今まで以上に深まり、取り組みが広がってきていることは大きな成果だ。海外展開も4年前と比べると約4倍に売上が拡大しており、一定の成果は上がっている。今後どう広げていくかが課題であり、これから加速を図りたい。
構造改革ではサプライチェーンコントロールセンターを一昨年設立し、ようやく軌道に乗ってきた。そこが一体となって効率的に、物流の課題を一つ一つクリアしたい。
経営基盤については、世の中から要求される課題も多くなっており、一つ一つ確実に体質強化を図っていく。
企業理念「Joy for life 生きるをおいしく、うれしくしたい。」を一昨年に策定し、その浸透は道半ばだが、着実に取り組みを進めていきたい。また、女性活躍を目指した「カシオペアプロジェクト」を立ち上げ、その活動を広く推進し、根付かせることで、会社のあり様も少しずつ変化していると感じている。
また、台風21号により神戸工場が浸水し、一時操業停止を余儀なくされ、お客様にご迷惑をかける結果となった。しかし、現場の努力の甲斐もあって、被害を最小限に食い止めることができた。改めてBCPの重要性を認識した一年であった。
リスクマネジメント委員会を設置し、BCP対応を考えているが、想定外を想定しなければいけない時代となっており、シナリオ通りには動かない。いずれにしても当社には食用油の供給責任があり、それを果たしていくためにはどういうことができるのか、複数拠点での生産や、仕組みで担保するところと、人で担保するところ、普段から意識して設計していかなければいけない。
原料コストが経営に与える影響の高い企業としては、原料調達も大きなテーマだが、サステナビリティという文脈で語られることが増えている。地球温暖化による産地の環境変化や、米中貿易摩擦といった貿易問題がもたらす影響をどう考えるか、一つの課題となっている。また、これまで効率化を追求する中で、集中化を前提に考えがちだったが、分散化による多様化の両方の併存をどう判断するのか、そういったことに気付かされた一年。そのバランスを短期、中長期で考えていく必要がある。
――2019年の抱負としては。
昨年は当社の高付加価値品について、お客様に少しずつでも理解をいただいたので、「ホップ」はできたかなと考えており、次の「ステップ」が今年、そして2020年の「ジャンプ」につなげていきたい。
事業環境的には相当厳しくなると想定しており、自立的な成長に向けて、大きく踏み出せる組織にしていきたい。
〈大豆油糧日報 2019年1月10日付より〉