ポッカサッポロ社がレモンと大豆チルドの事業部を統合、そのねらいとは
同社は「ポッカレモン」を1957年に発売し、家庭用レモン果汁の市場ではトップシェアを誇る“レモンの会社”だ。一方、豆乳関連の事業は2015年に参入し、2019年春に自社工場を新設して豆乳ヨーグルトの売り上げが拡大している。ただ、レモンに比べれば規模はまだまだ小さい。なぜ、看板のレモン事業を他の素材と並べた名称の事業本部にしたのか。同社執行役員の大槻洋揮レモン・プランツミルク事業本部長に話をきいた。
ポッカサッポロフード&ビバレッジ 大槻本部長
――9月の組織変更でレモン・プランツミルク事業本部を新設されました。ねらいは。
組織を変える理由は、どうしても成し遂げたい戦略があるということだ。今回の組織変更は、わかりやすくいえば攻めと守りの戦略にエッジを立たせたいと考えたものである。
当社は、これまでレモンと清涼飲料とスープという3つの事業を中心に展開してきている。豆乳ヨーグルトなどは大豆チルド事業として展開してきたが、新規事業のため既存事業と同じモノサシで測ると、どうしても売り上げや利益という目先のことが中心となる。既存の事業と比べると売り上げもまだ小さいが、植物性食品の市場は世界的に伸びており、当社の豆乳ヨーグルトも大きく伸長している状況だ。
そこで、大豆チルド事業を本業に位置づけようと考えた。会社は、収益力と将来性が重要であり、目の前の業績が厳しくなると現在の価値を示す収益力を高めようとする。一方、将来性の方は手間暇や時間がかかるからこそ、早めに着手して将来の種を作らなくてはならない。そこで当社は、食品飲料事業本部とレモン・プランツミルク事業本部という2つの本部体制にした。
――祖業であるレモンと、5年前にスタートした大豆チルド事業をひとつの事業本部とされたことに驚きました。
社員にとっても、創業の事業であるレモンと新規のプランツミルクが一緒になったのは驚きだったと思う。ただ、清涼飲料やスープなど加工食品の事業は、新たなものは生み出すこともあるが、基本的には基軸事業として一歩ずつ改善しながら収益性を高めるような現状基点の改善型の事業である。
一方、豆乳ヨーグルトなど(大豆を中心にした)植物性のミルクを表すプランツミルクの事業は、まさにベンチャースピリットで新たな事業を創造するものである。ある調査会社では、これまで豆乳ヨーグルトのマーケットは、その他にあたる「ヨーグルト風デザート」というカテゴリーで扱っていたが、昨年から「植物性ヨーグルト」というカテゴリーが加わっている。これは、新たな市場として対外的にも認知されたことを示すと思う。
レモン事業も、もともとポッカの創業者である谷田利景が1957年に立ち上げたが、その当時はレモンを切る手間、搾る手間をなくした加工のレモン果汁という市場はなかった。新しい市場を創造してお客様に貢献するというスピリットに関しては、まさにプランツミルクと親和性がある。
そして、発売から63年かかってレモン食品の市場は100億円を超え、当社の市場シェアは85%以上ある。ただ、われわれの中長期の目標は、レモン食品の市場規模を2026年には倍にするというものだ。6年間で63年かけて作り上げた売り上げの倍をやるということは、10倍速ということだ。既存の延長線上の活動では10倍速にすることはできない。新たな需要を創造するような提案を積極的に行わなければ、レモンは日本の食生活に根付かないだろう。そこで、レモン事業は当社のコア事業だが、あらためて創業者のベンチャースピリットを持って、新しい提案をどんどんやっていこうと考え、レモンとプランツミルクを一緒の事業本部にした。
――相乗効果は期待できますか。
清涼飲料と加工食品のビジネスは、加工技術をベースとして、横軸にカテゴリーを広げていくという水平展開型のビジネスといえる。レモンとプランツミルクは、両方とも素材に立脚したビジネスであり、われわれはその素材をベースとして、垂直統合型のビジネスを展開したいと考えている。
原材料の状態から最終製品までいかに自社で一貫してバリューチェーンを構築していけるか。(川に例えるならば)いまは川中(製品)の近くにいるが、より川上(原材料)にさかのぼり、その素材を独自の加工技術により、多くの価値を引き出すことが重要だ。
垂直統合型だからこそ業務用のビジネスにもつながっていく。ブランドによる価値だけでなく、その素材の価値を中食や外食などの分野でも活用いただくこともできる。
たとえば、「ポッカレモン」を使うことにより、幅広くパートナー企業と連携しながら、さまざまなレモンの商品やサービスでお客様を幸せにするような提案ができるのではないか。業務用ビジネスの広がりでは、レモンとプランツミルクの親和性は高いと考えている。
そして、不確実性の時代とは言われているものの、食のトレンドは「健康」、「環境」、「サステナビリティ(持続可能性)」が今後も求められるだろう。当社のレモンや大豆製品は、植物素材を由来としており、おいしくて、お客様の健康に寄与し、環境にも配慮している。レモン・プランツミルク事業は、食トレンドにも合致し、会社の個性を牽引するという意味からも共通しており相乗効果を生み出すだろう。
また、おかげさまで、レモン事業(家庭用レモン果汁)ではシェア85%超、豆乳ヨーグルト事業もシェアが約60%ある。トップブランドは、市場の価値そのものをお客様にお伝えし、新たな需要を創造しながらカテゴリー全体を大きくするマーケティングを推進することが求められることも共通しているので、各カテゴリーでの経験は双方に役立つだろう。
――なぜ、「プラントミルク」ではなく、複数形の「プランツミルク」の名称にされたのですか。
大きく2つの意味合いがある。われわれは、豆乳ヨーグルト以外にアーモンドミルクの「アーモンド・ブリーズ」も展開するなど、伸長著しい植物性ミルク市場で、お客様のニーズをしっかり捉えながら素材の幅を広げていこうと考えている。
だからこそ、複数の素材に立脚した事業を営みたいということで複数形にした。英語表記だと、プラントミルクやプラントベースとなるため造語となる。
複数形にこだわったもうひとつの意味は、“プラント”という言葉に工場の意味があるためだ。確かに工場から商品を製造して送り届けているが、われわれの豆乳ヨーグルトの製造技術である「おいしさ丁寧搾り」は、素材の魅力を最大限に引き出すため、手間暇を惜しまない作り方である。
素材の力や恵みをお客様にお届けしたいという思いを持ち、手間暇をかけてモノを作り上げる工程を鑑みた時に、“プラント”という響きから伝わる人工的なものではなく、もう少し温かみと手作り感のあるクラフトマンシップでお客様にお届けしたいという考えから、あえて“プランツ”という表現にした。
レモンとプランツミルクが一緒になった部署は、世界中でも当社だけだろう。「レモン・プランツミルク事業」というユニークネスさに誇りを持ち、お客様にとってなくてはならないサービスを提供していくという意思を込めてこのような名前にした。
――今後の商品展開について
豆乳などのプラントミルクの販売が伸びているから単純に展開するのではなく、新しい提案やおいしさを磨く技術を高めていかなければ、単なる一過性のブームで終わってしまう。われわれは豆乳ヨーグルトだけでなく、飲料やスープなど多くの出口(商品)をたくさんもっているので、食全体のトレンドや生活者の価値観を何十年も見続けてきた当社だからこそ提案できる価値を提案していきしたい。
プランツミルクでは、「ソイビオ」ブランドを強化する。おいしさの面で非常に評価されているブランドだ。おいしいものを食べると無条件で笑顔になるし、習慣化が期待できる。豆乳だからこそ提供できる健康価値と圧倒的なおいしさの両立ができていると思うので、美と健康に寄与する「ソイビオ」豆乳ヨーグルトのおいしさを愚直にお伝えしていきたい。
レモンは、飲料の「キレートレモン」を中心にお客様のニーズに応えていく。気分を前向きにするというベネフィットや女性の健康的な美しさに寄与することに取り組みたい。レモン果汁の「ポッカレモン」は、いかにオケージョンを広げるかに取り組む。
現在は、家庭内需要がメインだが、外に持ちだせたり、個食文化に応えた商品も検討している。また、レモンは果汁だけでなく、果肉や果皮を使った業務用製品が製菓、製パン、中食などで非常に受け入れられている。今後も、さらに喜んでいただける提案をしていきたい。