J-オイルミルズ・八馬史尚社長「基幹ビジネス強化しつつ適正価格を実現、“ビオライフ”含め新領域を伸ばしていく」/新年製油メーカートップインタビュー
新型コロナの影響により、依然厳しい状況が続いている。下期は感染者数の減少もあり、個人消費に持ち直しの動きが見られたものの、先行きが見通せない状況が続いており、直近のデータを見ても、外食のお客様は引き続き厳しい状況が続いていると認識している。
2021年は大豆、菜種、パーム油いずれも、これまでにない水準で高騰した。食用油脂原料の国際相場が未曽有の水準で高騰し、大きく構造が変わった年と感じている。世界的な需給バランスが大きな影響を受けた1年となったが、原料を取り巻く環境は、今後も予断を許さない状況が続くと予想され、原料相場や為替が短期間で変動する中で難しい舵取りを求められている。
当社がこれまで取り組んできた高付加価値品の拡販について、業務用では長持ち油「長徳」の拡大を引き続き提案している。昨年、独自技術の「SUSTEC」を採用した「長徳」シリーズをリニューアルするとともに、新たに「すごい長徳」を発売し、当社の技術力を活かしたお客様にお役立ちできる提案を進めている。家庭用では、オリーブ油について品質への取り組みの強化を進めており、前半はやや苦しんだものの、後半には手応えが出てきた。
スペシャリティフード事業におけるテクスチャー素材のスターチも、これまで以上に採用事例が増えている実感があり、製菓製パンのお客様にはくちどけ向上のご提案などを評価いただき、肉の価格高騰の影響を受けている畜肉加工のお客様や、漁獲高減少という課題を抱える水産練り業界のお客様には、食感改善、歩留まり改善の提案を評価いただいている。
加えて、植物性チーズ代替品「ビオライフ」を発売した。次の成長の芽となる新規領域へのチャレンジだったが、立ち上がりは想定通りの推移を示している。ヴィーガンやベジタリアンの方に加え、アレルギーをお持ちの方や健康志向の方、若い女性にも支持されている。また、これまで接点が少なかった高級スーパーでの取り扱いも進んでおり、手応えを感じている。
植物性チーズ代替品は大豆を主原料とした商品が多いが、「ビオライフ」はココナッツ油とスターチがキー素材となっており、当社の事業との親和性も高く、品質面でも評価いただいている。同時に植物性バター代替品「ビオバター」も、幅広い層から注目を集めている。これらのカテゴリは決して広くはないが、消費者の潜在的なニーズがあり、深いマーケットだと感じている。今後販売エリアを全国に拡大し、成長が期待される乳系プラントベースフード市場で新たなカテゴリの構築を目指す。
22年に向けての課題は原料の高騰にどう対処していくかだ。年4回の値上げは過去にも実施したが、改定額は今までにない水準だ。特に菜種は高騰を続けており、直近では新穀の油分低下が大きなインパクトを持っている。お客様に状況を丁寧にご説明しながら、お客様の課題解決に貢献できる提案に取り組んでいく。
〈川上における油種と産地の多様化、川下ではフレキシビリティ高めていく〉
――菜種の供給に関する危機感について。また、他の油種の選択肢は
今後も安全・安心で確かな品質の製品を安定的にお届けしていく。川上においては油種と産地の多様化、川下ではお客様との接点においてフレキシビリティをいかに高めていくかが重要だ。川上と川下の組み合わせを構造的に考えていかないといけない。
この先、カナダで100万tクラスの搾油工場が複数建設される話もあり、昨夏のような40℃を超えるような状況も、これまでになかった環境と認識している。この先キャノーラ油を安定的に供給していくためにも、リスクとしてしっかり管理していくべきポイントだ。大豆についても引き続き高値で推移しているが、菜種に比べ懐の広さが圧倒的に違うので、大豆との組み合わせの中で最適解を探していきたい。
――依然厳しい業務用の対策について
当社の業務用事業は、これまで長年にわたり支えていただいたお客様との関係が強い基盤となっている。本年はお客様へのお役立ちをさらに進化させることで、この関係が一層強固なものとなるよう提案を行う。ソリューション事業部においては食用油だけでなく、スターチなども含めた総合的な提案を行っており、お客様と深いコミュニケーションができるようになっている。
お客様の先にいる生活者の視点に立つことで、お客様のパートナーになれる。BtoCの目線を持ちながら、パートナーとして認めていただける提案が求められている。油で長年取り組んできた実績を活かし、今後も強みとして磨いていきたい。
――中長期的なオリーブ油の市場見通しを
オリーブ油の購入率は3割ほどで、今後も伸びる余地がある。市場を広げるためには、品質、用途、健康価値に関する情報発信が大切と考えており、生活者により満足してもらえるよう、総合的なコミュニケーションを実行し、購入率を引き上げていく。2022年もしっかりと育成に取り組んでいきたい。
――「ビオライフ」の高級スーパーでの採用は油脂の販売にもプラスになるか
新しいチャネルのお客様と接点が持てるようになったので、販売できる商品群をもう一段増やす取り組みが必要だ。自社ECサイトでも高付加価値品を販売しているが、可能性がある商品は、新たなチャネルでの展開も視野に入れていきたい。
――改めて2022年に向けての抱負を
企業の果たすべき役割として、利益の創出に加え、社会課題の解決が求められていると認識している。いかに世の中に役立つ仕事ができるかを常に考え、持続的成長のために価値を創造し続ける必要がある。そのための基幹ビジネスの強化は継続的に行いつつ、安定供給の責務を果たす上でも適正価格の形成に取り組んでいかなければならない。
変動する川上と、それに適応した川下をどうつくっていくか、新しいパラダイムをどうつくるかということに加えて、「ビオライフ」を含め、新しい領域をいかに安定的に伸ばしていけるかが2022年のチャレンジだ。組織内のバリューチェーンが一体となり、成長のための変革をより一層加速して進めていきたい。
〈大豆油糧日報2022年1月11日付〉