昭和産業、全事業で価格改定を実施、環境変わり過去の経験則が通用しない状況に/新妻一彦社長インタビュー

昭和産業・新妻一彦代表取締役社長執行役員
昭和産業・新妻一彦代表取締役社長執行役員

――今期の概況と通期見通しについて

コロナ禍の長期化に加え、原料穀物相場がロシアのウクライナ侵攻によりさらに高騰し、エネルギー価格も上昇するなど、コスト面で大きな影響を受けた。さらに為替が一時150円台まで円安に進むなど、これまで経験したことのないアゲンストな事業環境に直面した。原料穀物の多くを海外から輸入している当社にとって大変厳しい一年だった。

全事業で価格改定を行った。食品業界では1月~12月で2万品目以上の値上げが行われ、価格改定に対する理解が進んだとはいえ、コストアップ分のキャッチアップまでには至っていない。

通期の業績予想については、8月に公表したものの、その後の急激な円安進行やエネルギーコストの急騰があり、11月に下方修正を余儀なくされた。

――油脂事業を振り返って

2021年以降、汎用油で計6回の価格改定を実施した。直近の日経相場では1斗缶7200円まで上昇している。価格高騰から食用油需要の減退も見られる。

このような中、お客様には長寿命油脂や吸油を抑制するミックスなど、コストダウンにつながるご提案や、テイクアウト適性や食感改良効果のある油脂・ミックス等のご提案など、ソリューション営業を推進している。

――通期の着地の見通しは

売上高は3380億円と大幅増収を見込んでいるが、営業利益、経常利益、当期純利益は減益となる見込み。原料穀物相場の上昇時の価格改定は、どうしてもタイムラグが発生してしまうため、収益面に影響が出る。過去の例では、2008年の原料穀物相場高騰時はレーショニング(穀物価格高騰により需要が減退すること)により1年ほどで価格は下がった。

しかしながら、今回は需要が落ちても相場は高水準の状態が2年続いており、今後も続くと見ている。業界を取り巻く環境が変わり、過去の経験則が通用しない状況になっている。ウクライナ情勢次第だが、小麦は需給がタイトではないにしても高止まりするだろう。

油脂原料は高い水準が続きそうだ。大豆や菜種は以前のような相場水準に戻るのは難しいのではないか。下がった場合でもバイオ燃料としての需要が増加してくる。

世界の人口は80億人に達し、世界的に食料が不足していく。ウクライナ情勢が解決しても生産能力の回復には2~3年はかかるだろう。

〈次期中計は「収穫」のステージ、ワンストップ型の営業組織に改編〉

――中期経営計画2020-2022の最終年度になります

この計画を策定したのは2019年であり、2020年3月期は過去最高の業績だった。その後、事業環境が大きく変わってしまった。この3年間は厳しい環境ではあったが、ボーソー油脂・サンエイ糖化を子会社化するなど、基盤事業の強化を図った。小袋専用の船橋プレミックス第2工場も新設し、やるべき投資は着実に実行してきた。

財務面では、2022年3月期の目標は売上高2800億円、営業利益130億円だが、売上高はグループ力をつけたことや価格改定などにより達成できる見込みだが、経常利益については非常に厳しい状況だ。

一方で次の「中期経営計画2023-2025」につながる取り組みも進めた。ソリューション営業部を立ち上げて1年以上経過したが、外食産業との新しい取り組みの成果が出始めている。

油脂事業では、米油市場が100億円マーケットに成長している中、ボーソー油脂の子会社化は非常にタイミングが良かった。その後、ボーソー油脂は当社とのシナジー発揮により、3期連続で黒字を達成している。

辻製油と油脂食品事業・糖質事業における業務提携も行った。辻製油はコーンジャームからコーン油を搾油している。

当社はサンエイ糖化の子会社化により、コーンジャームの生産量が増えた。糖質事業のBCP対策が必要で、辻製油とともに糖質やコーン油を安定供給し、拡売していく。菜種油、大豆油の汎用油と比べて、コーン油は価格変動が少ない油で、ユーザーも価格形成も異なる。今後も油種を広めることは必要だと考えている。

――次期中計のイメージは

「中期経営計画2023-2025」は収穫のステージと位置付けているが、収穫のみならず、持続的成長に向け、さらに進化していく。そして外部環境の変化に左右されにくい収益構造改革に取り組んでいく。

――4月1日に予定する組織改編について

「中期経営計画2023-2025」の施策の一つとして、創業以来の大規模な組織改編を実施する。これまでの「プロダクトアウト型」の縦型組織に横串を刺すイメージだ。1998年から広域営業部という「ワンストップ型」の組織を立ち上げ成功している。

それと同じ発想で生まれたのがソリューション営業部だ。今後は、営業組織を全面的にマーケットイン志向の「ワンストップ型」に変えていく。大きな労力が必要でリスクもあるが、お客様の多様化するニーズに対し、今まで以上に当社グループの強みである複合系シナジーソリューションを最大限に発揮できる組織にする。社員の負担は大きくなるが、社員のスキルアップにつながる。また、事業別の採算が明確に出てくるため、強化すべき事業をさらに可視化できると考えている。

――油脂で追加の価格改定を行う可能性は

加工食品の多くは2月に価格改定が発表されている。年末年始の状況、市況を見ながら方向性を決めていきたい。斗缶自体の価格も上がっている。燃料サーチャージの導入も課題だと考えている。

原料穀物の調達の分散化も必要だ。これまで菜種の輸入はカナダがメインだったが、豪州からの調達も増やした。トウモロコシも同じように、ブラジルや南米などを含め、調達先の分散化により原料穀物のさらなる安定調達を図っていく。

――新年の抱負を

23年は前向きに行きたい。創業90周年、100周年を見据えた次期中計の1年目として、持続的成長に向けたビジネスモデルの進化、外部環境に左右されにくい収益構造改革に取り組み、V字回復を目指す。

〈大豆油糧日報2023年1月13日付〉

媒体情報

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大豆と油脂・大豆加工食品の動向を伝える日刊専門紙

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大豆から作られる食用油や、豆腐、納豆、みそ、しょうゆを始めとした日本の伝統食品は、毎日の食卓に欠かせないものです。「大豆油糧日報」では、発刊からおよそ半世紀にわたり、国内外の原料大豆の需給動向、また大豆加工食品の最新情報を伝え続けております。昨今の大豆を巡る情勢は、世界的な人口増大と経済成長、バイオ燃料の需要増大により、大きな変化を続けております。一方で、大豆に関する健康機能の研究も進み、国際的な関心も集めています。そうした情勢変化を読み解く、業界にとっての道標となることを、「大豆油糧日報」は目指しています。

創刊:
昭和33年(1958年)1月
発行:
昭和33年(1958年)1月
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