【トップインタビュー】マスキチ・金田雅律社長、2024年で創業220周年、油の価値認めてもらい問屋の原点に

マスキチ・金田雅律社長
マスキチ・金田雅律社長

マスキチは1804年(文化元年)に「枡屋」の屋号で油問屋、両替商として創業し、2024年で220周年の老舗企業だ。

1947年に油脂製品、油脂原料の取り扱いに専業し、1968年に現在の社名であるマスキチに変更した。6代目の金田雅律社長は2024年春、全国油脂販売業者連合会(全油販連)の会長を2期務めた功績により、旭日小綬章を受章した。金田社長に同社の歴史と強み、商売の考え方について話を聞いた。

「油は利益が出ないので、父の代で会社を整理すると言っていた」と明かす。基礎原料である油は付加価値が少ないので儲からない。また、儲けてはいけないという発想があったという。加えて、油問屋は競争が激しかった上に、終戦後は油が大量生産されるようになり、食材系の卸、酒屋や米屋なども販売するようになる。「食材系卸にとって油は一商材なので、利益が出なくても売上になれば良かった。スーパーで安売りされるのも食用油だ。16.5kg斗缶はJAS規格があり、どの製品も品質には問題がないため安売りしやすい」と説明する。

金田社長は次男だったこともあり、大学卒業後は、当時の一部上場企業で会社員となった。理学部を卒業した長男は学者の道を選び、跡継ぎがいないことから社員に任せた時期もあったが、うまくいかなかったという。「私は一度、家業を継ぐのを断ったが、2年経ってから真剣に考えた。もし将来、子どもにその理由を聞かれた時に、一度やってみて駄目だったなら、『やるべきことはやったが駄目だった』、『自分の能力が足りなかった』と言えるが、挑戦もしないで江戸時代から続く家業を止めることはできなかった」と振り返る。

マスキチに入社した時期は商社の氷河期で、問屋不要論が叫ばれた時代だ。食材系の二次店が伸びて大きくなった。一次店の同社は現在も問屋に販売する商売が中心だが、一部で末端ユーザーへの販売を始めたという。「食材系卸との競争は価格ではなく品質競争を行い、油の説明を丁寧にして納得した上で買ってもらった。客単価の高い専門店に、トンカツ、天ぷら、中華に合う油を売るようにした」と述べる。

また、問屋とはどのようなものかについても考えたという。「仕入れて、在庫して、配送する。『そうは問屋が卸さない』というように、昔は問屋に価格決定権があった。金融業も兼ねていた。油の価値を認めてもらい、問屋の原点に返ることをした。産地の情報はメーカーに聞いた問屋が持っている。そういった情報を伝えるのが問屋本来の仕事だ。小口配送で問屋の原点に戻れば何とかなると考え、今日まで事業を続けてこられた」と強調する。同社は一部の末端ユーザーにも販売してきたことで品揃えが増えていき、ほとんどのメーカーの商品を扱っている。ごまの原料を販売していたので、ごま油は全メーカーと付き合いがあるのも強みだ。

〈飲食店のユーザーと長いお付き合い目指す、「吉兵衛」の襲名も検討〉

今年220周年を迎えるが、「今まで大きな試練があった。バブル崩壊、リーマンショック、東日本大震災を乗り越えてきたのは、それだけいい飲食店のユーザーがいるからだ。その時に儲かればいいという付き合いはしていない。長いお付き合いを目指し、2代、3代と付き合いがある。時間をかけないと信頼関係はできない。取引先の飲食店が繁盛すれば、われわれ油問屋もメーカーも販売量が増え、来店客もおいしいと幸せになる」と商売の考えについて語る。

コロナ禍で業務用は大きな打撃を受けた。「飲食店には補助金があったが問屋にはない。東京ディズニーランドは1年休園しても大丈夫だと聞き、当社も調べた。社員は残し、銀行への返済や家賃を払っても、1年半は大丈夫であることが分かった。結局、コロナ収束には3年かかったが、外食がゼロになるわけではなく、企業努力して当社も商売が続いている」と述べる。

同社では、2代目の初代吉兵衛から5代目まで「吉兵衛」を襲名しており、金田社長も3年以内には襲名を考えているという。「歴史で飯は食えないが、継続することは大事だ。それにはお客に信頼してもらわなければならない。そうすることでメーカーからも信用を得られる。どちらにも誠意ある取引しないと長くは続かない」と、200年企業の言葉には重みがある。

〈大豆油糧日報2024年7月4日付〉

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昭和33年(1958年)1月
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