【注目のしょうゆメーカーに聞く】弓削多醤油・弓削多洋一社長、輸出は4月から6月の3カ月間で、去年の売上の8割に到達、過去最高に
埼玉県坂戸市にある弓削多醤油の評判が高まっている。弓削多洋一社長は、「去年、今年はしょうゆが足りなくなってしまうほど売れている。中でも、輸出の伸びは好調で、今年は4月から6月の3カ月間で、去年の売上の8割に達しそうだ。過去最高になると思う」と話す。
1923年に創業した同社は、木桶でのしょうゆ作りにこだわっている。2021年3月に設立された「木桶仕込み醤油輸出促進コンソーシアム」のメンバーだ。弓削多社長によれば、「木桶でしょうゆを作っているのは全国で100社くらい。もろみを持っているしょうゆメーカーが200社ほど。10年前は木桶を作る職人が1社しかなかった」(弓削多社長)。
そこで、木桶の文化を守り、後世に残したいという思いから、香川県小豆島のヤマロク醤油が10年前に「木桶職人復活プロジェクト」を立ち上げた。日本の醸造で使われている木桶の4分の1が小豆島で使われている。木桶は一度壊れたら修理ができない。木桶職人の跡継ぎがいなくなってしまっては木桶でしょうゆを造ることができなくなる。ほとんどのしょうゆメーカーは壊れる前に木桶をやめてステンレスなどで作られたタンクに切り替えてしまうという。
弓削多醤油はそのプロジェクトのメンバーで、蔵ごとに菌の生態系が異なることから各蔵独自の味や香りを造り出す木桶の良さを伝え、広めてきた。木桶の良さを広める活動が、多くの人の関心を惹きつけ、勉強会やイベントなどにも多くの人が集まるようになった。このタイミングで、農水省が食品の輸出拡大に向け、動き出した。そこで、世界のしょうゆ市場の1%(金額ベース)を木桶仕込みしょうゆにすることを目指し、木桶仕込みしょうゆのメーカー25社(現在29社)が参加する「木桶仕込み醤油輸出促進コンソーシアム」が立ち上がった。
「『木桶職人復活プロジェクト』の坂口直人代表はもともと大工だったが、ここ数年で大工よりも木桶づくりの仕事の方が多くなった。木桶職人で生計を立てられるようになってきた」。
また、しょうゆ以外にも酒蔵やみそ蔵、しょうゆの得意先の鰻屋も鰻のたれをねかせる木桶が欲しいというオーダーや、ビールを木桶で作りたいという所も出てきている。「木桶ブームに火がつき始めた」。木桶の良さを伝えるシンポジウムには、料理職人やスーパーのバイヤー、食品メーカーも参加するようになってきたといい、「毎年、5、6人の外国人も訪れ、自分で作った木桶で仕込んだしょうゆの味を見て欲しいとわざわざ参加される人もいる」。
〈100年蔵や、醤遊王国とともにファンづくり、自慢の生しょうゆをアピール〉
弓削多醤油は昨年100周年を迎え、記念事業として、30石(5,400L)の木桶を仕込む蔵「100年蔵」を今年完成させた。「製造量を増やすことで木桶仕込みしょうゆの良さを日本のみならず、世界へ発信できるよう一つでも多くの木桶を保有ししょうゆ文化の良さをアピールしていきたい」。
同社の差別化ポイントは日本で初めて「生しょうゆ」を販売したことだ。「もろみから搾ったままをビン詰めした、無殺菌・成分無調整・無フィルターろ過のしょうゆ。まろやかでダシしょうゆのような風味がある。『これって本当にしょうゆですか』と尋ねられるほど、通常のしょうゆとは異なるらしい」と謙遜する。
同社ではファンづくりのため、19年前に「醤遊王国」を建設し、製造工程を見てもらう場を作った。「しょうゆをしっかり作っているところをお客さんにみてもらいたかった。搾りたての生しょうゆを提供すると、うまいと評判になった」。
こうした評判から得意先も増えた。「スーパーからの注文が増えた。自然食品の店舗なども得意先となった。ライフのビオラルという健康にいい食品の売場にも並び始めた」。木桶で作った自慢のしょうゆを国内外へ販売する勢いはさらに加速しそうだ。
〈大豆油糧日報2024年7月24日付〉