【米国大豆の需給展望】食品用輸入大豆のトップシェア商社・兼松に聞く、24年産豊作見通しならば$10で推移する可能性も、本船プログラムに継続して注力

兼松・食品素材部食品大豆課長代理の藤井賢二氏
兼松・食品素材部食品大豆課長代理の藤井賢二氏

米農務省が発表している米国産大豆の24年産期末在庫率は7月発表で9.98%と高く、シカゴ相場は$10台(19日現在)に付け、軟調傾向となっている。

現時点では24年産大豆の作柄はまずまずで昨年より良好に進捗しており、現状の需給報告で置かれている単収予測(52.0Bu/Acre)を収穫期に達成することとなれば、現状レンジより少し切り下げ$10.0を底に推移する可能性もありそうだ。

兼松の食品素材部食品大豆課長代理の藤井賢二氏は、「10%の期末在庫率があれば、歴史的に見ても$10台前半から半ばのシカゴ相場が指標となり現状レベルの相場水準が継続する可能性はある」と解説する。

現状、食品用大豆はプラントベースフード(PBF)需要の低迷もあり、需要はスローな状況と捉える。一方で食品用大豆に使われるNon-GMO の種子開発は、農家確保の観点から以前よりも農家の収入が高くなる収穫高の高い種子開発に重きがおかれており、需要家の求める高たん白質の品種は確保しづらい。

そういった環境下、同社独自の取り組みとして、オハイオ州の事業会社KG Agri Products,Inc.(KAPI)では独自の種子開発も行っており、農家受けのする高たん白質の品種や納豆用の品種も開発している。手掛ける商社が限られるばら積み本船プログラムは、米国でインフレが続く中、将来的に現地選別よりも価格優位性が出てくる可能性もあり、産地リスクヘッジとしても、選別工場近郊以外の農家を捕まえることによる安定調達の意味でも、コンテナ品の販売と並行して継続して注力していく考えだ。

将来的には同プログラムに事業会社で開発した品種を加えることも構想する。藤井課長代理に米国産大豆の需給見通しやトピック、同社の最新の取り組みについて話を聞いた。

〈10%近い期末在庫率、数年ぶり潤沢で相場は軟調傾向、米国搾油需要は引き続き堅調〉

――6月発表の作付・収穫面積予測を受けて

コーンから大豆にシフトするのではという事前予想もあったが、結果としてコーンが若干増え、大豆は若干下がった。発表後シカゴ相場も少し上がったが、大勢に影響を与えるものではなかった。それよりも24年産の期末在庫率は10%近い数字が示されており、在庫の状況としては数年ぶりに潤沢であり、中国の輸入を含めて需要も決して強いわけではない。本年のやや強気に置かれている供給予測が達成されるとすれば、先々を含めると相場は軟調傾向と言える。

――世界の大豆の需要が落ちているのは

大豆の輸入量は中国がダントツ1位で、右肩上がりで伸びてきたが、現在は経済成長と比例して伸びが鈍化している。食品用大豆はNon-GMO が中心となるが、米国ではNon-GMO の比率は全体の5%ほどで横ばいが続いている。より安定して収入が得られるGMOの作付け意向の強い農家が多いため、Non-GMO 大豆を確保するには高いシカゴ相場、一部のGMO品種へのプレミアム払いの開始を背景としてここ数年プレミアムを上げざるを得なかった。コロナ禍での需要増もあり一時は堅調だった日本のNon-GMO 大豆に対する需要は、直近スローな状況が続いている。大豆加工品は値上げの転嫁が簡単にできる業界でもなく、各メーカーは為替も含めたコストアップに苦しまれている。逆に、豆乳用途で東南アジアへのNon-GMO の大豆の需要は引き続き堅調だ。日本の需要がスローならば、東南アジアで売れることになる。

――中国の輸入量が落ちているのは

在庫はある程度持っており、畜産のミール需要がそれほど強くないためだろう。予測よりも搾油量は減っているが、景気の面も影響している。これまで右肩上がりで大豆を購入していたが、現在は落ち着いており、在庫もキャリーしているのだろう。トランプ政権への警戒から手前での輸入量を増やす動きも見られるが限定的と考える。

――米国内の搾油需要は

引き続き堅調だ。米国内は人口もまだ増えており、金利を上げても経済成長している。搾油工場も増えており、油・畜肉需要両面から堅調と言える。

〈現時点の作柄は例年並みのイメージ、生産量の見通しは7月後半から8月の天候次第〉

――24年産の生産量見通しは

昨年は作柄の進捗が早かったため、昨対比で見ると1~2週間遅い。今クロップは春先に雨が多かったので作付が少し遅れた。天候的にはスポットで中西部にも乾燥が見られ、ノースダコタ州やミネソタ州では逆に多降雨・低気温から、一部の地域では作柄は悪いと聞いている。現時点では、総じて例年並みの作柄というイメージだ。大豆は7月後半から8月のサヤがつく時期の降雨と日照が非常に大事で、この時期の天候次第のため、まだ何とも言えない。

――単収予測の52.0bus/Aに対して

強めの数字だ。昨年が50.6bus/Aなので、下方修正される可能性はある。種子は毎年リニューアルされており、干ばつに耐性があるものが出て、新しい肥料も出ている。ボトムのところは上がっていくと思うが、単収は天候要因が一番大きく、どれだけ上に跳ねるかは天候次第だ。

――国内の食品用大豆は在庫がだぶついていると聞く

昨年、Non-GMO 大豆需給ひっ迫感から少し多めに購入したお客がいると聞いている。Non-GMO の大豆がひっ迫しており、いま購入しておかないと考え、買い増しされたところがあったが、需要はそれほど伸びていないので、在庫をキャリーしているという話を聞く。また、国産大豆が余っており、価格も(等級によっては)輸入並みか、場合によってはそれ以下になっている。国産大豆も含めると在庫は十分にある。

――米国とカナダの輸入量は前年同期比2ケタ減で推移する中、年間の輸入量の見通しは

播種前契約は買い付けが早い。24年産は昨年の秋から契約が始まっている。23年産の契約は22年の秋口から行っているので、2年後の需要が落ちても、ある程度はすでに購入している。船積みを遅らせる手段もあるが、いきなり数量が落ちることはない。22年は大豆加工品の消費も悪くなかったので、そこから消費の伸びが鈍化しているのが、在庫が重いという話につながっているのだろう。24年の年間輸入量としては微減くらいで着地するのではないか。24年産は需要動向を踏まえ、若干調整するお客はいるだろう。

――国産大豆に切り替える動きは

既 存の商品で国産を使っているものを単純に増やすケースや、抜本的に輸入から切り替えて、国産の商品を作る動きが多少出てくる可能性はある。ただ長期的にどう見るかだ。マジョリティは輸入大豆なので、大手メーカーを含めて、いかに安定調達するかが重視される。われわれとしては喜ばしいことではないが、現状では国産大豆は安価なので、切り替えていく動きもなくはないだろう。

〈事業会社KAPIで需要家向けの高たん白や納豆用の種子も開発〉

――米国での品種開発の現状は

GMOの大豆は高単収で農薬耐性が強い品種が次々に開発されている。対して、Non-GMOの種子会社は、企業規模的にもGMOの種子会社とは差がある場合が多い。GMOの種子会社でNon-GMO の大豆の品種開発に力を入れているところもあるが、農家確保を考えると、たん白質と単収の高さは反比例するので、種子を多く売るには、農家目線にならざるを得ない。農家にとってたん白質は関係なく、単収が高く、プレミアムを多く取れる品種に関心が向いている。需要家が豆腐や豆乳に求める品種は確保しづらい環境に今後ますます進んでいく可能性は高い。

兼松としては、大豆の契約栽培、選別、販売業務などを行うオハイオ州の事業会社KG AgriProducts, Inc.(KAPI)で種子開発も行っている。私も4年間駐在していたが、たん白質がある程度高い品種を豆腐や豆乳の需要家向けに開発し、オハイオ州やミシガン・インディアナ州の農家に生産してもらうプログラムがある。いい品種を確保しづらい中、種子の部分からスタートした供給プログラムを持って展開しているのは強みだ。

――納豆用品種の開発状況は

納豆用は極小や小粒なので単収がどうしても落ちる。そのため、単収が落ちやすく通常サイズの大豆よりもプレミアムを多く払う必要がある。主産地のオハイオ州、インディアナ州、イリノイ州ではどれほどプレミアムを払っても中々継続したプログラムにはなりづらい。GMOの大豆は主産地に重きを置いて開発されているので、ミネソタ州やノースダコタ州、カナダのオンタリオ州など、GMOが植えづらい北部に適したものがそれほどなかった。搾油工場も少なかったので、手間がかかってもNon-GMO プレミアムの欲しい農家のいるエリアで生産されていた。ただ、そういったエリアでも搾油工場が設立され始めたので、今後は少し確保しづらくなるかもしれない。当社はKAPIで納豆用の品種も開発しており、一定量を出す予定だ。

――カナダ産の輸入量が増えている要因は

単純に為替の影響もある。ドル高なのでカナダドルのレートが良くなり、競争力があるのが要因の一つだ。米国も開発を頑張っているが、高たん白で農家受けする品種はカナダの方が成功しているイメージはある。米国はインフレの影響が大きかったので、競争力が出しづらい要因もあるかもしれない。

――今後のプレミアム価格はどうなる

25年は若干下がってもおかしくないと考える。理由としてはシカゴ相場が$10台と低い水準で、Non-GMO のプレミアムが占める相対的な収入割合が上がるためだ。今まではGMOの大豆を作れば$14~15だったが、$10にしかならないとなると、手間をかけてもNon-GMOを作付するという農家は出てくるだろう。それほど大きくは下がらないと思うが、多少下げやすい環境になっているのは米国もカナダも同じだ。

一方で、22年頃からは、酸化しづらい油が採れるハイオレイン酸大豆のGMO品種にもそれなりのプレミアムが払われるようになったので、Non-GMO のプレミアムが上昇した。脅威ではあるが、現在はハイオレイン酸大豆の需要も当初予想よりもそれほど増えておらず、プレミアムについては横ばいで推移している。

――豆腐や納豆メーカーは追加の値上げが必要か

現状のコストアップを考えると必要になると思うが、大手メーカーが価格改定しなければ、中小メーカーが上げるのは難しい。大豆だけでなく、包装資材やダンボールの価格もかなり上がっていると聞いている。人材確保はどこも苦しく、安定雇用を作るのは難しい。コストアップ要因が大豆以外にもかなりあることを踏まえると、十分に転嫁し切れていないと聞いている。

――コンテナ確保の問題は解消した

フレート自体は少し和らいでいるが、コンテナは引き続きタイトだ。パナマ運河の通航制限もあり、洋上の時間が長く、回転が悪いことも多少影響している。

〈ばら積み本船はリスクヘッジや安定調達の意味で継続、KAPIの種子も加える〉

――ばら積み本船プログラムについて

他の商社が撤退する中で、兼松として引き続き取り組んでいきたいプログラムだ。KAPIで開発した種子を内陸部に持っていき、イリノイ州やミズーリ州などの農家を確保し、ミシシッピ川のリバーターミナルに持ってきてもらい、艀でニューオリンズに運ぶ本船プログラムも将来的な打ち手の1つとして取り組みたい。大型船満船には合積み貨物が必要で、コーンチームと一緒に昔から取り組んでいる。そういったことができる商社は限られる。安定調達を考えればやるべきプログラムで、さまざまな取り組みを考えている。

昔のプログラムは、ニューオリンズ出しの未選別大豆を日本の港湾倉庫で選別していたが、現地選別、現地コンテナ積みで日本に持ってくる方が安価なのでシフトしていき、現在では主流になっている。未選別のばら積み本船は限られた商社しか手掛けていない。新しい農家確保の観点・安定調達の意味でも欠かせないので、兼松としては引き続き取り組んでいく。

――貴社が特に力を入れていく取り組みは

川上の種子がなければ農家を確保できず、いい種子がなければ価格も高くなってしまうので、事業会社のKAPIで開発したいい種子を展開していく、あるいはそこを軸にかけ合わせものを使っていきたい。

今まではサプライヤーだけを見ていたが、種子会社への働きかけも行い、いい種子を追いかけるというのが一つだ。本船プログラムは品種のオプションも増やし、そこにKAPIで開発した品種も加えられればと考えている。また、どうしても相場からは逃げられないので、昔から言っているが、最適なタイミングで提案していくことだ。

――今後のシカゴ相場の見通しを

24年産が現状見通し通りとなり、10%の期末在庫率を維持するのであれば、過去の在庫率VSシカゴ相場の相関性を見ても$10台が続いていく可能性はある。今後7~8月と今クロップ作柄を決める重要なシーズンに入ってくるので、そこをクリアしないとそこまでの下げ圧力はまだない。収穫期には、農家の現物売りも入るので、収穫期に向け$10を底に推移する可能性が高い。一方で現状予想数字より良化(過去最高の単収)、在庫率が11%台まで良化となれば$10切りのチャンスも出てくると思っている。

とは言え、52.0Bus/Aの達成見通しは現時点では不透明であり、過去52Bus/A平均の単収を達成したこともないことから、天候懸念などから逆に動く可能性も十分に想定される。また一度レンジが切り上がった相場はなかなか戻ってこないことから、現相場の相場水準であれば一部値決めは推奨したい。

〈大豆油糧日報2024年7月26日付〉

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