廃食用油の歴史とSAFの課題/全油連・塩見事務局長に聞く

〈高い精製技術で配合飼料に利用、SAF用として輸出が3万tから12万tに急増〉

SAF(持続可能な航空燃料)の原料として、廃食用油に大きな注目が集まっている。従来の燃料と比べて、CO2削減につながることから、欧州を中心にSAFへの利用の流れが出来つつある。ただ、日本の廃食用油は厳しい基準の下、産業廃棄物として適切に回収・処理されてきた歴史がある。高い精製技術により、主に配合飼料の原料に利用されてきた。外食や中食といった事業者から出る約40万tの廃食用油のうち、25万tは飼料用途で、5万tは工業用途で必要だが、その品質の高さから欧州企業がSAF用として注目し始め、3万t程度だった輸出が12万tに急増している。「日本の食料安全保障の観点からも良くない状況」と指摘する全国油脂事業協同組合連合会(全油連)の塩見正人事務局長に廃食用油の歴史、輸出価格の急騰の背景、SAFの課題について話を聞いた。

塩見正人事務局長
塩見正人事務局長

日本でSAFは最近の大きな流れだが、国際的には19~20年辺りからSAFを使う流れが出てきたという。国際民間航空機関(ICAO)が2030年にカーボンニュートラルにすることを目指し、航空燃料の10%のSAF利用を決めた。SAFの原料としては現状、世界でも廃食用油以上に扱いやすいものはないという。日本以外の国々だと、東南アジアでは廃食用油は捨てられていたが、欧米や米国は廃食用油や非可食油などをバイオディーゼルにしていた。その文脈でSAFが位置付けられる。

SAF製造の世界ナンバーワン企業は、フィンランドの国営の石油化学企業だったネステ社だ。大きく離れてフランスのトタル・エナジーズ社が続く。ネステ社は、2010年辺りから再生可能エネルギー企業に変わる大転換が行われ、巨額の資本が注入された。2010年代後半からSAFの原料の購入を増やしている。

日本の廃食用油はトレーサビリティがはっきりしている。廃棄物管理表(マニフェスト)を必ず作成しないといけない。誰がいつ最終処理を行ったのか、不法投棄を防ぐためにしっかりと管理されている。塩見事務局長は、「そこまで徹底した管理は世界的にも珍しい」と力説する。ネステ社からも日本の廃食用油は非常に扱いやすいと評価された。

日本の廃食用油は98%のリサイクル率を誇る優秀な原料だ。精製して水分や夾雑物を取り除き、用途は主に配合飼料として、工業用と合わせると9割以上を占めていた。事業者からの回収可能量は約40万tで、約30万tが飼料用だったが、現在は18万tを切っているという。飼料用の減った分は輸出に回っており、ほぼ100%SAFとなっている。

〈コロナで配合飼料の添加量下がり、履歴出る高品質の日本の廃食油にネステ社が注目〉

廃食用油を飼料に使うのは、日本以外だと豪州と米国の一部の州に限られるという。日本の精製技術は高く、70年以上前から飼料に使われてきた。飼料安全法やGMP基準など厳しい基準があり、付加価値を持たせる「油を磨くことに取り組んできた」(塩見事務局長)と強調する。

廃食用油は産業廃棄物となる。産廃事業は許可制で、リサイクル業者はエリアを決めて事業活動を行っており、食品工場や飲食店、コンビニなどから回収していた。回収する業者や廃食用油の行先は決まっていた。一番多い飼料用途は、夏場になると家畜が飼料をあまり食べなくなるので需要が減る。油はだぶつくが、生ものなので劣化し、飼料には使えなくなる。廃棄するよりは、安価でも輸出した方がいいため、2000年初頭からは、国策で自動車にバイオ燃料を使うことになった韓国に輸出していたという。

ところが19年以降、コロナ禍で飲食店は閉店し、食用油の需要が減り、総菜、スーパー、冷食メーカーなどから廃食用油の発生量が減っていく。一方で、外食産業が打撃を受けたことで、畜産のと殺頭数も減った。肥育日数が終わっていると高カロリーの飼料は必要ないため、廃食用油の配合飼料の添加量も下がっていく。廃食用油がだぶついていた中、ネステ社の目に留まり、履歴が出る上に、品質も高いことから高く購入される流れとなった。

〈ICAOがSAF10%使用義務付けで利用機運高まる、輸出価格は21年6月以降急騰>

輸出価格(後掲資料グラフ雑油輸出価格)の推移を振り返ると、17~20年は60~70円、高くても80円台だったという。一方、国内の廃食用油(同2号油B植)は40円半ばで流通していた。ところが、コロナ禍でSAFが注目され始めると、輸出価格は、ティッピング・ポイントだという21年6月に95.4円、為替の影響もあり21年9月には117.1円まで上昇する。22年は毎月15円ずつ上がっていき、10月には199.1円まで急騰する。

国内廃食用油の価格推移(全油連調べ)
国内廃食用油の価格推移(全油連調べ)

背景には、国際民間航空機関(ICAO)が2030年にSAF10%使用を義務付けたことがある。SAF利用の気運が高まり、欧州が買い漁るようになったという。「欧州政府が輸入業者に3分の1の補助金を出したことで強気な価格が提示されるようになり価格が高騰した。輸出価格は80円から200円に、国内廃食用油は46円だったのが、120~130円に上がっている。輸出価格が上がり、国内の廃食用油もつられて上がった。だが、国内の飼料用価格を上げたら、飼料メーカーは畜産農家への販売価格に反映しないといけない。それは無理なので価格を下げると、欧州も輸出価格を下げ始めた。海外マーケットに翻弄されている状況だ」と解説する。

価格の下落は、世界で廃食用油の調達が加熱し過ぎたこともあり、SAFの製造量が間に合わず、油がだぶついたことや、インドネシアやマレーシアがパーム油の廃食用油を集めて、日本よりも安価に供給し始めたことも要因だ。22年10月をピークに、24年7月時点では国内の廃食用油が95円、輸出が132円まで落ちており、乖離幅は小さくなっているという。

〈SAFとして使う場合のルールが異なるのはおかしい、ルールづくりが必要〉

廃食用油は元々、全国の食品メーカー、飲食店などから、廃棄物として有償で収集・運搬、もしくは無償で引き取っていた。許可業なのでエリアごとに強い業者がいる。許可を持っていないエリアの販売は、許可のある業者に頼む互助組織という形で成り立っている。一方で、SAFのために有償で買い取る新規参入業者が増えた。その場合は廃棄物ではなくなり、マニフェストが不要になる。許可制でもないため、例えば東京の業者が北海道で買い取ることも可能だという。「廃棄物としては保管方法や保管容器、保管上限が細かく決まっていたが、SAFとして使う場合にルールが異なるのはおかしい」と指摘する。SAFの業者は廃食用油をほぼ買い取っているが、現状では国産SAFはまだない。「国産SAFになると思って廃食用油を提供しても、安い原料を売って海外からSAFを高く買っている」と説明する。

塩見事務局長は、バイオ燃料などに食料を供給すべきではないという。かつて、ブラジルのトウモロコシが燃料向けに購入されたことで飢饉が起きた例を挙げる。日本国内で飼料に使われるべき廃食用油が輸出に回っており、廃食用油40万tのうち、輸出は3万tから12万tに増えることになった。「国内では飼料原料として年間25万t、工業用に5万t、合わせて30万tは必要だ。12万tを輸出するのは日本の食料安全保障の観点からも良くない状況だが、民間企業だけでは対応が難しく、農水省に旗振りをお願いしている。国が交通整理をして日本の食料を守る必要がある」と問題提起する。

飛行機に続いて船舶の国際機関も2030~2050年に24%のSAF利用を宣言し始めた。船舶は飛行機よりも油を使うため、国内的にも国際的にもトピックになっているという。

日本から輸出される廃食用油はt当たり$1,300ほど、インドネシアからは$800ほどで欧州に輸出されている。それらの廃食用油でネステ社が製造したSAFは$2,900~3,000になる。国内でSAFを製造する場合のコストはL当り300~600円とされ、1,600円という試算もあるという。通常のジェット燃料はL当たり90~100円とされるので、その差額はサーチャージとして、乗る人が負担することになる。24年12月には、大阪府堺市に国内初のSAF製造工場が完成する。「SAFの事業者は精製も何もせずに廃食油を販売しているが、ルールづくりが業界としても、国としても必要だ」と説く。全油連では農水省からの委託事業として、23年3月末にトレサビなどに主眼を置いた廃食用油のリサイクル工程管理を規定したJAS規格を作っている。

〈大豆油糧日報2024年9月5日付〉

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