100年企業に向け歩み、使用大豆の国産化に注力/【トップに聞く】丸美屋
〈主力納豆「パワーキッズ」を2025年春に切り替え、将来的には5割まで引き上げ〉
「お城納豆・とうふ」で広く知られ、熊本城復興支援や食育活動などに取り組み地元に根差してきた納豆・豆腐メーカーの丸美屋(熊本県玉名郡和水町)。来期70周年を迎える同社は、「100年企業」を目指し歩みを進めている。そんな同社が注力するのが、自社商品で使用する大豆の国産化だ。
約15年前に東健社長が先導し、持続的な原料調達・商品供給を見据え、国産大豆商品の拡充に舵を切った。子会社の農匠なごみでは大豆を自社生産し、原料の「見える化」で安心感の提供に繋げている。来春には、九州エリアの学校給食で馴染み深く、同エリアの量販店で配荷率ほぼ100%の主力納豆「パワーキッズ」を国産大豆に切り替える予定だ。
同社は、ひきわり納豆や充填豆腐で九州トップシェアを誇る。大豆の年間使用量は輸入を含め6,000t以上にのぼり、地方では有数の規模の大豆加工メーカーだ。現在の国産比率は2割だが、近く3割に到達し、将来的には5割まで引き上げる考えだ。
その背景には、数年前に北米産大豆の輸入に遅れが生じるなど、東社長が長年大豆産業に携わる中で原料確保の不安に直面し危機感を感じたためだ。「日本は自給率が低く、さらに海外に買い負けている。我々メーカーは原料が無ければ商品を作ることが出来ない。絶対に従業員を解雇するわけにはいかないと思った」(東社長)と話す。
〈大豆の自社調達目標は約3,000t、将来見据え納豆新工場建設プランを検討〉
2012年には農匠なごみを設立し、大豆を中心に裏作で麦やニンニクなどを栽培している。農匠なごみの東鉄兵社長(丸美屋副社長)は、「農匠なごみの年間大豆生産量は7080t。協力農家に生産を依頼し当社が買い取っている量は約1,000tにのぼる」と説明する。自社で調達した大豆は豆腐を中心とした丸美屋商品に使用し、足りない分は天候被害のリスクヘッジのためにも、九州の他産地や北海道産を入札取引などで仕入れている。
当初は、畑を借りるのも苦労したというが、農家の高齢化に伴い同社に土地を活用してほしいとの要望が増え作付面積は徐々に拡大、契約農家数は現在64軒まで増えた。自社生産が軌道に乗るまでの道のりについて、「かなり高価だったが色彩選別機を導入し自社で選別を始めた。コンバインを持っていない契約農家の畑の刈り取りも行っている。私をはじめ、社員が等級検査員の資格を取得し集荷も開始した。今では地元農業関係者が見学に来ることもある」と話す。
今後の目標については、「(丸美屋の大豆使用量の半分に当たる)約3,000tは自社で調達できるようにしたい。そのためにも倉庫や集荷施設の拡充を図らなくてはならない」と意気込む。
同社の強みである、独自性が光る商品開発も、国産大豆で進めている。2021年に発売した「スティック納豆」は、一般的なトレータイプに比べプラスチックの使用量が少ないSDGsに配慮した商品でもある。スティック形状は、猫好きな東社長が着眼した。「量販店で冷凍コーナーを拡充するという話も聞いており、将来的に冷凍納豆が普及していくのではないかと考えた。また猫を飼っており、ペットフード売場で『ちゃおちゅ~る』(スティック形状の液状おやつ)の棚が広くなっているのを見て、ペットに限らず可能性を感じた」という。味付きでタレを開けて混ぜるという準備がいらないため、高齢者施設などで重宝されているほか、「海外向け商品の展示会で非常に好評だった」(小幡浩之執行役員)といい、2024年7月から台湾への輸出が開始された。
そのほか2024年3月に発売した、肥満気味の人の体脂肪減少をサポートするエラグ酸入り「機能性表示食品国産小粒納豆まろやか酢たれ」は、「売価100円を超える商品だが、想定より売行きはかなり良い」(営業部販促課の冨永勇治課長)と手応えを語る。
さらに、将来を見据え納豆新工場建設プランを検討している。閉校した和水町の小学校跡地を活用するもので、納豆の国内製造拠点は南関工場(玉名郡南関町と合わせ2拠点になる。新工場の目的は、生産がひっ迫傾向にあったことや、(南関工場は)建屋が老朽化しつつあるためだ。新工場に合わせた更なる売上増に向けては、輸出を伸ばすべく海外部門の強化を図っていく。
力を入れるのは、商品面だけではない。同社は、熊本県「ブライト企業」(ブラック企業と対極の企業をイメージする造語)表彰を受けるなど、従業員がいきいきと働ける環境づくりも大切にしてきた。東社長には今、温めている構想がある。それは、従業員が働きやすいよう保育所、定年退職後も寄り添える高齢者施設を立ち上げることだ。「生まれてから生涯、人の人生に寄り添う会社でありたい」と東社長はほほえむ。
〈大豆油糧日報2024年9月19日付〉