【業務用部門長に聞く重点方針】昭和産業、最も顧客の幅が広く件数・取り扱いも多い部署/丸山眞爾フードプロセス営業部長
昭和産業は2023年4月から、業態別、顧客別のワンストップ型の組織体制となり、1人の営業社員が何でも売れる体制に舵を切った。フードプロセス営業部は、最も顧客の幅が広く、顧客件数・取り扱いアイテムも多い部署だと強調する丸山眞爾フードプロセス営業部長に、部署の重点方針・取組状況について話を聞いた。
――上期を振り返って
月によって好不調があり、かなり大きくブレがあった印象であるが、当社油脂の販売数量実績は前年に比べると好調に推移した。一方で、節約志向の高まりや廃油サイクルの延長で油脂需要量の低迷は続いており、販売数量はコロナ前の水準には大きく届いていないのが課題だ。
――注力している取り組みや商品は
当社独自の付加価値を付与した機能性油脂の販売は好調だ。特に力を入れているのは半流動性油脂「Sベーカリーオイル」である。同商品は、価値と価格に見合った技術を提供することで、ユーザーの課題解決する提案力が認められており、カレーパンがより美味しくなると好評で、日本カレーパン協会認定油として認められている。また、カレーパン専用バッターミックス「T‐129」も最近上市し、油脂と粉のトータル提案を行っている。同業にはない当社独自の提案スタイルであるのが強みである。
グループ会社のボーソー油脂との連携強化ということでは、こめ油の風味を生かした炊飯油「こめコート」を発売した。辻製油とも資本業務提携しており、コーン油の風味を生かした作業改善油「フライオイルCK‐UP」を発売し、外食、中食業態を中心に提案を行っている。
〈人手不足に対応する「打ち粉のいらない天ぷら粉」や「ピロー油」の提案強化〉
――営業組織を改編した効果は
2023年4月に創業以来初となる大きな組織改編を実施した。1人の営業社員がワンストップで営業できる体制の推進を加速させている。負荷がかかっていることは理解しているが、若手社員を中心に、何でも売れると非常に熱心に勉強してくれている。
――チャネル別の状況について
外食は業態で好不調が分かれている。中食は好調とも聞くが、油脂や粉については苦戦していると感じている。これまではバックヤードで下処理から天ぷらを揚げていたが、手間がかかるということで冷凍の天ぷらを揚げて販売されるようになり、天ぷら自体のSKU数も減っている。コロナ以降はパック商品で販売されるようになった。そうなると、どれほど品質のいい油を使ってもヘタリが早く、見た目にもおいしさが訴求できない。
天ぷらを揚げるには技術と時間が必要なので、人手不足という課題もある。それに対応した商品として、作業性、効率性を追求した「打ち粉のいらない天ぷら粉」や、同じく打ち粉が不要な「フライの匠バッターミックス」の販売が好調である。
――足元のコスト環境について
7月に10月からの価格改定を発表した。160円を超えていた為替は9月半ばに140円台まで円高が進んだ。穀物相場についても、大豆はそれほど大きく変わっていないが菜種は下落していき、価格改定に水を差された格好だ。ただ、足元では為替も150円中盤と再び円安に向かっている。大豆は下げ止まっており、菜種も再び上昇している。われわれのコスト環境について、引き続き丁寧に現状を説明し、理解を求めていく必要がある。
――下期の重点方針は
人手不足の外食業界では労働環境の改善が早急に求められている。従業員の負荷を下げるべく、使用する油については軽量のピロー容器の販売を提案していく。16.5kgの斗缶の給油作業は大変負荷がかかり、ケガをする可能性もある。その点では軽量のピロー容器だと扱いやすく、提案を強化するように指示を行っている。
一度ピロー油を使うと作業改善に繋がり、なかなか斗缶に戻れないというところも多いため、今後も課題解決型の提案として継続する。
フードプロセス部は旧油脂部が主体で、油脂をフックに小麦粉・ミックス粉・パスタ・大豆たん白及び糖類を業務用外食卸、冷凍食品メーカーに販売する部署である。業務用卸に対する販売は、これまで油脂斗缶を中心に、天ぷら粉、から揚げ粉、パスタの食材にとどまっていた。しかし、今回の組織改編によるワンストップ型の営業スタイルとなったことで、糖質部出身の営業が、油脂商品などと並行して得意な糖質を販売することができる営業スタイルに変わりつつある。
また、小麦粉の販売が中心であった冷食メーカーに対しては、油脂類も糖類も幅広く提案するようになった。提案できるカテゴリーが増えているのが、今回の組織改編の最大の強みであり、競合する油脂や製粉メーカーにはない当社独自の強みであると考えている。
〈新しい価値を提案する勉強会を実施、小麦加工品「ファリーナオーロ」発売〉
――付加価値商品の販売について
今まで大豆油、菜種油の販売にとどまっていたユーザーに対し、新しい価値を提案していくため、さまざまなカテゴリー商品の勉強会の実施やサンプル配布を行っている。まずは商品を知ってもらい、使って頂けるよう土俵に上げることが重要と指示している。顧客に直接訪問し対話の機会を増やす顔の見える営業に力を入れ、課題を抽出して解決策を提案するよう営業社員に話をしている。
船橋工場にあるRD&Eセンターにもユーザー様に足を運んで頂いて、工場見学と合わせて商品提案を行っている。実際のパスタの提案事例として、経時変化や茹で上がりの直後でも、それぞれ違いがあるのを食べ比べてもらうことでその違いを理解してもらい、当社商品の良さを実際知ってもらうことで新規採用になったケースも多々ある。
――新商品の採用状況や引き合いは
炊飯油「こめコート」は大手ユーザーで採用が決まっている。こめ油を配合することにより、冷凍やチルド配送しても米の老化抑制と、ごはんの風味向上を評価頂いている。新商品の小麦加工品「ファリーナオーロ」は、保水と保油による歩留まり向上と粘度抑制効果の他、過熱による焼き縮み防止とエンハンス効果も認められているため、提案先の大手冷食メーカーからも好評だ。食品表示においては、小麦加工品なので添加物には当たらないことも採用事例が多い理由のひとつとなっている。
――今後のコスト見通しは
油脂需要は旺盛な状況が続くと想定している。世界的には人口増加傾向にあり、油脂はバイオ燃料の需要も拡大している。一方で原料の生産地には限りがあり、拡大していく状況ではない。近年世界各地で頻発する異常気象や天災が重なると、2年前のような需給ひっ迫と原料価格の急騰リスクは避けることができない。他国に買い負けない力を日本の企業も維持していかないといけない。今後の起こりうるさまざまなリスクを考慮すると、価値に見合った適正価格での販売を可能とする市場環境の整備が必要である。物流費や協力工場の人件費の上昇ほか、ブリキ缶やピローのビニールなどの包材価格も上昇している。それらをカバーするためにも、価格改定は継続していかなければならない。
〈大豆油糧日報2024年12月4日付〉