動物性に制約がある人を含むすべての人に向けたメニューの会を大阪で開催/不二製油
〈油脂×たん白の「ミラコア」で植物性食品の満足感を実現〉
不二製油は1月23日、大阪・中之島で「『おいしい』が解決する食課題―オールパーパス・ビュッフェ・エキシビション」と題し、同社が提案する「オールパーパスメニュー」を体感できる試食会を開催し、飲食・宿泊・観光等の事業者や、自治体関係者など約60人が参加した。オールパーパスメニューとは、ヴィーガンや宗教などで動物性食品に制約がある人を含むすべての人が「また食べたい」と感じるメニューのこと。参加者は、著名なシェフ4人が手掛ける13品をビュッフェ形式で体験した。
近年、さまざまな文化や背景を持つ訪日観光客が増える中で、ヴィーガンメニューの提供などが課題となっている。同社では、メニューを分けることなく一つの調理工程で完結できるオールパーパスメニューを提案することで、訪日観光客の期待に応えつつ、飲食店など現場での人手不足や作業効率といった課題の解決に貢献したい考えだ。
齋藤努風味基材事業部長はプレゼンテーションで、「当社は今年75周年を迎える。植物油脂のメーカーとしては最後発だったため当初から『人まねはしない』と常に新しいことにチャレンジし、革新を意識してきた。現在は植物性油脂と大豆たん白を主体に4つの事業を展開している」と同社の歴史と事業概要を紹介した。
その上で、「新しいチャレンジとして、23年度に風味基材事業を立ち上げた。この事業では、『動物性食品には満足感があるが、植物性食品は少しもの足りない』という課題をクリアしようと、(油脂とたん白を複合的に組み合わせることで満足感を実現する)『MIRACORE(ミラコア)』という新しい技術をベースに畜肉系風味、魚介系風味といった植物性ダシ製品『MIRA-Dashi(ミラダシ)』をラインアップしている」と説明した。齋藤氏は「農林水産省のフードテックビジネス実証事業で採択された『植物性ダシによるオールパーパスメニューの概念実証』の一環で本日も取り組んでいる。オールパーパスとは新しい概念であり、『よくわからない』と指摘されることがある。本日は五感をフル活用して体験していただければ」と呼びかけた。
〈「ミラコア」は「食シーンを変えるきっかけになる」「画期的な素材だと感じた」〉
続いて、ヴィーガンや持続可能性に配慮した料理に精通する米澤文雄シェフ(NO CODE)、片山心太郎シェフ(日本料理 楽心)、齋藤氏によるトークセッションが行われた。ファシリテーターの門上武司ジオード社長(フードコラムニスト、料理雑誌『あまから手帖』編集顧問)は「ミラコア」について、「私は油っぽいものが好き。ある人が作った(植物性の)とんこつラーメンを食べたときに、ほんまに(動物性が)入ってないのか」と驚いたエピソードを紹介し、「食シーンを変えるきっかけになるかもと(不二製油と)一緒に研究している」と話した。
米澤シェフは「私も同じだった。動物性が入っていないのかと。どうやって作ったらこうなるのか不思議だった。そういった調味では得られない風味が出る。画期的な素材だと感じた」と第一印象を述べた。片山シェフは「日本料理は一般に引き算の料理だが、『ミラコア』に可能性を感じている」と感想を述べた。
米澤シェフは「ヴィーガンの方は100人のうち1人いるかいないか。ヴィーガンの方のメニューを作るのは、(料理人にとって)責任感の部分が多い。(食べられない1人を含め)100人が食べられるメニューを『ミラコア』を使って作るのであれば、人材不足などの問題も解決できる」と話した。
齋藤氏は「ミラコア」の特徴について、「植物性食品のもの足りなさを克服して、心から食べたくなるような満足感を作り出すことを目指した、油脂とたん白を組み合わせた技術の総称となる。カツオ、エビと感じるような感覚を植物性素材から組み立てていくアプローチをしている点が最大の特徴だ。原料を変えても同じようなものができることは、サステナブル(持続可能性)な文脈で生きてくる。(一般的なダシのように)ダシの取り方によって変わることもない」と説明した。
また、「動物性にはさまざまな制約がある。畜肉エキスやカツオ節も、国によっては輸出ができない。動物性を使わないことで、選択肢が増えてくると考えられる。料理人の方々や飲食を提供される方々と一緒に共創していければ」と話した。
続いて、オールパーパスという概念の出発点となった「ミラコア」についてのトークセッションが行われ、開発段階から関わってきた和田有史立命館大学多感覚・認知デザイン研究室教授と、高山仁志シェフ(風の沢art&cuisine)、齋藤氏が登壇した。
和田教授は「岡倉天心の『茶の本』には、「質素なしつらいに無限の美を感じるのは、『未完の美』という概念があり、心の中に美を完成させる。『ミラコア』はおいしさが心の中で完成される新しい食材だといえる。日本的な美的感覚で作り出された、日本人として誇らしい食材」と評した。
高山シェフは手掛けたメニューの「エビ風味の植物性ビスクスープ」について、「『ミラコア』は新しい食材。そこにどう合わせるか。『ミラコア』の骨格を理解してつくると、『ミラコア』でしか作れないビスクスープができる」とした。
続いて、米澤シェフ、片山シェフ、高山シェフ、松原龍司シェフ(龍旗信)が「ミラダシ」を使ったメニューについて説明した。「ミラダシ」はチキンタイプ、ビーフタイプ、カツオタイプ、白湯タイプ、貝タイプ、エビタイプ(開発中)のラインアップとなる。お湯で割ったダシの試飲も行われた。メニューは、米澤シェフはチキンタイプと、豆乳クリーム「コクリーム」を使った「ジャガイモのポタージュ」、ビーフタイプと大豆ミートを使った「おにぎりジャージャーミート」など4品を用意した。
片山シェフはビーフタイプを使った「蓮根のいとこ煮 コンソメ仕立て」、チキンタイプを使った「大根の風呂吹き チョコレート味噌」など3品を提供した。大根の風呂吹きは赤みそに甘くないチョコレート「カカオエピス」を加え、華やかさを添えた。片山シェフは「想像力が大事。日本料理の足し算として、新しいチャレンジをした。ワクワクすることに重きを置いている」と話した。
高山シェフはエビタイプを使った「エビ風味の植物性ビスクスープ」など2品を、松原シェフは「ミラダシ」を組み合わせた貝風味の「完全野菜の塩ラーメン」、エビ風味の「同味噌ラーメン」など3品を紹介した。松原シェフは「『ミラダシ』を使ってヴィーガンラーメンを作り始めて2年になる。自家製のグルテンフリーの米粉麺とも相性がいい。植物性ラーメンのポイントは、冷えてもいける点。冷やしラーメンとして提供できる点もポイント」と魅力を話した。
〈オールパーパスが課題解決の一助に、新しい価値を生み出すきっかけになれば〉
閉会のあいさつで、大森達司社長は「当社は1950年に創業した食品の中間素材メーカーだ。植物性の新素材を開発している。今まではおいしさというより、食品の物性や機能を補強できる素材開発を中心にしてきた。植物性でおいしいものをつくろうと、基礎研究でおいしさを定義することから始まり、その成果が『ミラコア』だ」。
「今年は大阪・関西万博があり、昨年以上に外国人観光客が来阪するだろう。宗教、動物愛護を含め、いろんな価値観の中で、植物性が最大公約数の素材といえるのでは。オールパーパスが、皆さんの課題解決の一助に、新しい価値を生み出すきっかけになればうれしい」。
「万博においては、大阪外食産業協会のパビリオンに約2週間出店し、プラントベースフードの食体験イベントを企画している。お肉が大好きな方から、ヴィーガン、ベジタリアンの方を含め、おいしいと感じてもらえる食品素材を今後も開発していく」と意気込みを述べた。
〈大豆油量日報 1月31日付〉