「JAS0028」で廃食用油が高く売れる構造を、SAFも履歴証明が重視される/全油連

全油連 塩見事務局長
全油連 塩見事務局長

全国油脂事業協同組合連合会(全油連)は、SAF(持続可能な航空燃料)の原料として注目が集まっている廃食用油を集める事業者が加盟する業界団体だ。廃食用油の唯一の国内規格「JAS0028」制定へ向け音頭を取り、環境省に採択された事業として、業務用の厨房に設置されているグリーストラップの油脂の回収可能量を検証し、CO2削減効果も調査中だ。

東京都との事業では、豊島区に家庭用廃食用油の回収ボックスを設置し、回収量の実測データと周辺の世帯数などのビッグデータを組み合わせ、他の自治体が回収量を予測でき、回収から再利用までトレースも可能なデータベース化を進めている。塩見正人事務局長(写真)に同協会の直近の取り組みについて話を聞いた。

全油連が申出を行い、日本農林規格調査会の審議を経て2023年3月、廃食用油に関する唯一の国内規格「JAS0028」が制定された。同規格を取得すれば、廃食用油のリサイクル工程で適切な管理・処理が行われていることの証明となる。2月時点で2社が取得済みだという。「JASを取得しただけでは価値に反映されない。廃食用油に付加価値がつく構造を作っていかないといけない。JASを取得している廃食用油が選ばれる流れを期待する」と話す。

「JAS0028」は、廃食用油を原料とした再生油脂を製造するリサイクル工程管理について規定しており、異物混入防止やトレーサビリティの確保、従事者に対する管理などが記載されている。「きちんとトレーサビリティが取れており、どこから発生して、だれに運ばれてきた廃食用油か分かっている。SAFの場合もどこから持ってきたかという履歴証明が重視されている」と説明する。SAFは、サプライチェーン全体で適切に回収や処理が認証されたCORSIA認証のものが国際的に評価される。

廃食用油の市況は現在、世界中で需要が高まるSAFに引っ張られ、下げ相場が続いている。日本からの輸出価格と国内の二号油(一次精製した廃食用油)の価格は同じように下がっているという。「円安なので輸出価格は本来上がらないと駄目だが、相場的に買い叩かれている」と指摘する。

日本の二号油は雑味精製(トリートメント)した油だ。海外ではトリートメントしていない廃食用油のUCOやUCOMEをメチルエステル変換し、バイオディーゼル燃料となるFAME(脂肪酸メチルエステル)に加工する。FAMEからもSAFを製造している。「日本の廃食用油は燃料化の技術ではなく、飼料にできる栄養管理や品質管理によって独特の進化をした」。飼料にできるほど品質が高いにも関わらず価値が下がる理由について、「海外は飼料のために輸入しない。燃料のためFAMEに加工するので、原材料の廃食用油は安く抑えたい」と説明する。

ただ、日本では廃食用油を畜産飼料にして食料需給を底支えしてきた歴史がある。「食卓から食卓に形を変えて戻ってくる良好な資源循環だった。突然、世界のトレンドだからSAFとなっている。国産SAFは2030年に171万kl必要とされるが、そもそも事業系は畜産飼料やインクなどに使われている。余裕があっても2~3万tほど」と解説する。

一方、家庭用の廃食用油は法律によって飼料には使うことができない。年間約10万t生じているが、わずか4,000tしか使われておらず、96%は家庭ゴミなどで捨てられている。4月から大阪府堺市で国内初の国産SAF工場が稼働する。「SAF工場を作るのに3~4年の期間があった。10万tのうち、3~4万tでも集める努力はすべきだった。事業系を期待していたのだろうが、鶏肉を食べる人の方が飛行機に乗る人よりもはるかに多い」と、エネルギー安全保障のSAFと食料安全保障の飼料との優先度について問題提起する。

〈環境省の事業採択、発生量約70万t試算、グリーストラップの油脂回収と燃料化探る〉

全油連は2024年11月、環境省の「令和6年度脱炭素型循環経済システム構築促進事業」に採択された。事業名は、「国内未利用油脂からの燃料利用促進に向けたリサイクルプロセス構築実証事業」だ。

同事業では、国内の飲食店や食品工場などから排出される油脂(グリーストラップ浮上油、ブラウングリース)から、燃料や燃料原料への活用技術を検証する。さらに、それら油脂の効率的な回収方法の検証、回収可能数量を算定する。それとともに、燃料化に向けた精製技術を検討し、単純焼却するのと比べ、CO2排出量の削減効果を検証する実証を行う。

グリーストラップは、排水中の油分を下水道に流さないように、業務用の厨房に設置が義務付けられている。「そこに貯まる油脂は飼料には使えないので燃料化するしかない。全油連では未回収の油をどう効率的に集めるか、日本にどれだけあるかを検証するため、2024年から3カ年で環境省の委託事業として調査実証を開始している」と説明する。

全油連と環境省は2024年度に実態調査を行い、2025年度はそれを踏まえ、効率的な回収方法や燃料化の技術を探っていく。「燃料化にも松竹梅がある。SAFのように高度化が必要か、バイオディーゼルのレベルか、燃やすだけでいいのか。バイオディーゼルくらいに落ち着くと考えている。捨てられていたものをリサイクルして製品としてうまく使うのは否定される流れではない」と語る。なお、環境省は数年前に一度試算しており、発生量として約70万tを見込んでいた。その半分としても35万tにも上る。

塩見事務局長は、「未利用資源を活用する取り組みを受託できた。公的なデータを提供し、こういった品質の油がこれだけあると分かれば、企業が研究できる。事業化の目途が立つ。データをもとにビジネス的な投資判断をしてもらえる。業界関係者がポジティブに検討できれば」と同事業の意義を語る。

〈豊島区で廃食用油を回収・再利用の仕組み構築、DB化で自治体が回収予測可能に〉

さらに全油連は、エコクリエイティブとアールイーとともに、東京都デジタルサービス局の東京データプラットフォーム事業(TDPF)として、「家庭系廃食用油トレーサビリティシステム構築プロジェクト」に取り組んでいる。同プラグラムの一環として、2024年12月から豊島区のスーパーや巣鴨信用金庫の入口などに、廃食用油の回収ボックスを設置している。実施目的は、家庭系廃食用油の回収から再利用までのトレーサビリティデータを取得できる仕組みを構築し、その成果をTDPFのコミュニティを通じて都内各自治体と共有することだ。

同プロジェクトは、豊島区で家庭系廃食用油の回収スポットを新たに設置し、既存の設置場所を含めた全回収スポットにおけるトレーサビリティデータを取得するというものだ。回収データを元に、回収できた廃食用油量やリサイクルに利用された量、脱炭素効果、他の自治体で見込める回収予想量などを可視化する。塩見事務局長は、「豊島区をモデルケースにして、住民から出る油をトレースする。東京都のビッグデータとわれわれの実測データを掛け合わせる」と説明する。例えば年間の回収量と半径300mの世帯数が分かると、1世帯当たりどの程度集まるかが推測できる。「家庭系の廃食用油の回収を検討する自治体は回収予測が可能になる。目標値を定める基準にしてもらいたい。ケーススタディを多く作っていく」と展望を語る。

分析結果を閲覧できるポータルサイトはすでに制作し、公開準備中だという。3社の役割としては、全油連が回収を行い、環境コンサルタントのエコクリエイティブが入ってきたデータをCFP(カーボンフットプリント)など暫定的な影響を評価する。システム設計はアールイーが担う。「日本の廃食用油のデータベース(DB)をつくりたい。例えば豊島区の公民館で何月何日に回収した油が、誰がどこまで持って行ったのか。その油がどこに売られたか。その輸送距離はどのくらいで、何日後に石けん、あるいはバイオディーゼルになったのか、最終工程までトレースできる」と説明する。

全油連は全国団体として、各地域で対応できる強みもある。例えば、アスファルトプラントを手掛ける田中鉄工(佐賀県三養基郡)と廃食用油の供給の包括提携をしている。石や砂利を乾かす熱源は原油だったが、提携により40%を廃食用油に切り替えられたという。

「全国どこでも全油連から廃食用油の供給を受けられる。田中鉄工とは二人三脚で全国のアスファルト合材センターに供給する準備をしている。今年度は13カ所に、来年度はさらに10カ所増える」と述べる。

〈大豆油糧日報 3月21日付〉

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