【ボーソー油脂 金子社長インタビュー】5期連続の黒字見通し、ミッション・ビジョン・バリューも策定

ボーソー油脂は今期も前期並みの利益を確保し、5年連続の黒字となる見通しだ。金子俊之社長(写真)が3年前に社長に就任して以降、課題としていた「設備」、「仕組み」、「人員」のうち、昭和産業とのシナジー効果もあり、この3年間でグループ会社を含む設備と人員については健全化が進んだという。いまやこめ油の家庭用市場は金額ベースで200億円規模にまで拡大してきた。
商品面では容量ラインアップの見直しやブレンド油も検討していく。売上の半分をこめ油で占めるが、今後は副産物の脱脂糠などの高付加価値化にも注力していく考えだ。事業概要と今後の取り組み、新たに策定したボーソー油脂グループのミッション・ビジョン・バリュー(MVV)について話を聞いた。
――今期の進捗は
2020年9月に昭和産業グループ入りして4年半、着任から3年となる。振り返ると19年度は3期連続の赤字だったが、翌20年度以降は黒字で推移している。今期も前期並みの利益を確保し、5期連続黒字となる見通しだ。さまざまなコスト低減の努力が礎となって、こめ油の市場拡大とも重なり、追い風となった結果だ。
就任初年度は、企業として継続するため、「設備」、「仕組み」、「人員」の健全化に、グループ含めて優先順位を考えることにエネルギーを費やした。その後取り組みが進んできた。設備に関しては昭和産業と縁のある業者の協力も大きかった。古巣である昭和産業のRD&Eセンターは当社から徒歩5分の立地なので、かなり活発な交流もしている。
研究開発の機器や設備を使わせてもらい、昭和産業の知見も利用して当社が欲しいデータを取得できている。工場の参考事例は昭和産業の船橋工場や鹿島工場にある。本社も千代田区で近い。昭和産業グループの事例を参考にさせてもらうなど、シナジーが大きかった。
この3年間、グループの5社を含めて設備投資を進め、老朽化設備は健全化してきた。部分的には設備導入と効率の良い工程を組み合わせたコストダウン効果が確認できている。全体では老朽化した大型設備の更新にかなりコストがかかるので、コストダウン効果の集積に期待している。
不足していた人員についても健全化してきた。ボーソー油脂本体だけで社員は2割ほど増えている。余裕がないと新しいことにも挑めないので、必要な先行投資だ。
――こめ油市場は拡大し続けている
今期は5年連続黒字で収まりそうだ。ただ、製造原価は上昇しており、収益的には厳しい状況だ。数量が伸びても売上、利益は足踏みしている状況だと認識している。家庭用のこめ油は伸長しているが、大手量販のPB、海外でのボトリング製品が増えており、地方では特売企画も盛んで競争激化を感じている。
〈容量見直しブレンド商品を含めて多様化、副産物の高付加価値化が売上・利益伸長のカギ〉
――今後の商品開発について
食用油業界の春夏新商品では、大手製油メーカーが大容量のこめ油を出すなど、容量戦略で販売競争が激化している。当社も容量を見直す必要がある。容器の選択では新パックが目につく。こめ油をベースにしたブレンド商品を含めた多様化の戦略を練っている。
当社の売上は食用油が7割を占める。そのうち7割がこめ油で、残りはコーン油や菜種油となる。全体の売上の半分がこめ油で成り立っている。残りの3割が副産物で、脱脂糠、脂肪酸やワックス、石けん、化粧品となる。コーン原油と脱脂コーンジャームを含めて昭和産業に供給もしている。
こめ油は極端な価格競争にさらされることはなく、数量を増やし続けている状況だ。国産の米糠確保と不足分は海外こめ原油で補ってきた。海外はタイ、ブラジルからの輸入が中心だが、国際相場は上下する。天秤にかけての調達でやりくりしている。東南アジアを中心に現地サプライヤーとの関係を強化していく。
こめ油だけでは利益にも限界がある。今後は、飼料用途で販売している副産物の脱脂糠や、脂肪酸、ワックスなどを高付加価値化していくことが売上、利益の伸長のカギを握る。健康食品や化粧品向けの素材など新商品を期待しており、いくつか候補はある。
――ブレンド油の構想について
過去に発売していなかったわけではない。正直難しいが、チャレンジしていかないといけないと考えている。業務用では価格が重視される。一昨年からこめ油とコーン油のブレンド商品を主にトンカツ屋向けに販売している。油種は菜種油、コーン油、購入品でパーム油を取り扱っているが、外注を含めて検討していく。
――容量戦略は
小容量の180gから中容量の500gまで間が空く。現在は600gが主力で、850g、910g、1,350g、1,650gをそろえている。ボトルの形状を含めて、容量の見直しも考えている。もう一つは紙パックだ。消費者の食いつきは必ずしも良くないが、複数メーカーが棚に並べている。
また、委託で昨年からバッグインボックス(BIB)を出荷している。感触が良ければバラエティー化も考えたい。
――あっさりとした味わいなどでの差別化は
こめ油の精製の仕方で多少演出できる。当社のこめ油は、サラダ油規格を目安に低温でも結晶成分が出にくいというのを特徴で供給している。どういう精製度合いのものが差別化商品としてできるか見極めるのは難しく、別の油種を組み合わせる方が違いを出しやすいだろう。
〈米糠調達は新米時期まで厳しい予測、理念は「一糠二油sunshine」、原点は糠と確認〉
――米糠の調達について
令和5年産米は高温障害で品質が良くない。それに伴って米糠の油分が低く、米糠の発生量ほど油は取れない。令和6年産米は不足気味だ。1年以上前からインバウンドの影響もあり米の消費が伸び、米糠の発生が増えた。増え過ぎて抽出処理が間に合わない。時間が経つと糠は傷むので質の悪い原油が増えた。数量的には国産米糠が潤沢だが、品質の面で問題があり、精製処理にも時間がかかった。
米糠の発生は昨年の秋頃から減少している。現在も少ない状況で、何とか集めている状況だ。精米所を持つ米卸でも米糠の発生は偏りが出ている。原料部隊が頑張って発生しているところを押さえて調達に動いているが難儀している。夏に新米が出荷される時期までは厳しいという予測で臨んでいる。
――化粧品や健康食品の新商品について
米糠を活用した「スクワナチュレ米ぬか化粧せっけん」は36年ぶりにリニューアルした。販路は生協中心だったが、販路拡大も考えている。米油副産物をビタミンEやトコフェロール、γ‐オリザノールなど、健康食品や化粧品の素材として使ってもらえないか模索している。
――こめ油市場の見通しは
家庭用こめ油市場は金額ベースで200億円規模になった。海外製品も伸びている。2024年9月末、17年ぶりにホームページをリニューアルし、スマホ画面も見やすくなった。これからブラッシュアップしていき、当社やこめ油の魅力を継続して発信し、知名度を上げていく。
――新たな取り組みは
ボーソー油脂グループのミッション・ビジョン・バリュー(MVV)を新たに策定した。従業員に普及活動し、組織の活性化や人事評価にもつなげていきたい。採用活動など対外的にも活用し、当社がこういう会社であるということをアピールしていく。
策定するにあたり、従業員のよりどころとして、「糠」が多く出てきた。理念は「一糠二油sunshine(いちぬか にあぶら さんしゃいん)」で、一富士二鷹三茄子という縁起のいい言い回しにあやかって決まった。米糠に始まり、こめ油を通じて、社員や社会を輝かせようというものだ。ボーソー油脂の精神的原点は糠と確認できたのは大きな成果だった。
ミッションは「糠る」という動詞だ。原料として使っている大事な国産原料の可能性を最大限引き出すことを使命とし、それを表現した。ビジョンは「糠 歓び」だ。糠喜びという表現とは全く違う意味だ。環境、経済、食文化、未来の「四方良し」の世界を目指す。私を含めた4人でビジョンをイメージできる絵を半日がかりで描いた。バリューは「米(マイ)チャレンジ」、「糠にぞっこん」、「米糠職人」、「命根(イネ)の恵み」、「BOSO魂」の5つを定めた。
〈大豆油糧日報 3月26日付〉