【最終コーナーに向けて】 ビール4社の営業トップに聞く④ キリンビール・石田明文執行役員マーケティング本部長

〈「新・一番搾り」好調、缶は2ケタ増で推移、ビール市場を活性化〉

――ビール類の1~9月はいかがですか。

総市場は前年から2%強、落ちている。6月の改正酒税法の影響は、想定以上に大きかった。新ジャンルからRTD やPB ビール類というトレンドがさらに進んだ状況も見られ、改めてお客様の価格に対するシビアさを実感している。そういうなかで9月から本格展開した「新・一番搾り」は、非常に好調だ。9月月間では「一番搾り」缶は121%、10月も好調だ。

――「新・一番搾り」の好調の理由は。

リニューアルは、もちろん、一番搾り製法のおいしさを伝えるためのものではあるが、ビールそのものをもっと魅力的にみせることを追求したものでもある。堤真一さん、満島ひかりさんらが登場するTVCM やコミュニケーションは、直感的に「あ、ビール飲みたい…」と思わせるものだ。他方で、左脳のほうでは「一番搾り製法」を改めて理解していただき、情緒面との両輪で訴求している。

新しいお客様がトライアルしてくれているかを最も重視しているが、結果、狙い通りにトライアルが起きている。購入間口が拡がっていることが調査で分かっている。

味わい的には、スーッと入ってくるがちゃんと麦本来の味わいがあり、もう一杯飲みたくなる。麦の味わい、のみやすさ、苦味が絶妙なバランスを保っている点は、特に、ジョッキで飲んで頂いたときに、実感して頂けると思う。

――新ジャンルはいかがですか。

一方、課題は新ジャンルだ。改正酒税法に加えて、新年から当社が新ガイドラインを実施したことも少なからず影響している。「のどごし」は1月に本体をリニューアルし、2月にエクステンションの「のどごし〈春の喝采〉」、4月に通年の「のどごし スペシャルタイム」を発売したが、累計では前年を割っている。そういうなか、9月19日に発売した「のどごし ZERO」については、昨年、同じ時期に「のどごし オールライト」をリニューアルしたものの、前年を上回って順調に推移している。40~50代のユーザーをメインターゲットに絞って、糖質ゼロながら、おいしいことを訴求していく。味には高い評価を頂いており、飲んで頂いた方の、リピート率が非常に高い。11月21日には「のどごし華泡」を発売。当社新ジャンルでは初めてホップを発酵中に漬け込む製法を採用し、華やかな香りが特徴だ。リッチな味わいを冬の食卓に提案する。

――機能系ビール類はNo.1ですね。

「淡麗グリーンラベル」に加え、特に「淡麗プラチナダブル」が好調で1~9月で104%だ。「グリーンラベル」は、“緑の草原で飲むイメージ”で機能系に加えて情緒的な価値を持つ。ここにプラスして、新ジャンル「のどごし ZERO」でも、しっかりと支持を得ることで、改めて機能系ビール類の基盤を確実なものとする。

〈「タップ・マルシェ」来春から全国展開、クラフトビールで一気に攻勢〉

――業務用の方針はいかがですか。

ビール業務用の総市場はかんばしくない。樽生は98%くらいだろう。当社では「タップ・マルシェ」を4月から首都圏で先行発売し、年初の目標1,000店を10月に達成した。3Lペットボトル容器を4本、省スペースでセットできる。オーダーすると、宅急便で翌々日には届く。このようにハンドリングが容易なことから、料飲店のニーズが高い。18年春からは全国へ展開し、年間5,000店の新規導入を目指す。来年は一気に攻勢をかける。

料飲店では、ワインや日本酒は、そのお店のお勧めの料理に合ったものを揃えている。しかし、ビールは依然として〈樽生〉か〈瓶〉の2種類しかない。そういう時代ではない。「タップ・マルシェ」の人気ぶりをみて、ビールも間違いなく、料理に合う種類というものがあるのだと実感している。

販売先だが、居酒屋やパブはもちろんだが、例えばブックカフェ、シネコンなど、今までビールを扱っていないようなところにもアプローチしている。「えっ? こんなところに!」という意外なところにニーズがあると考える。

いいものをリーズナブルな価格で提供するのはもちろん大事だ。しかし、この20年間、ビール業界では、発泡酒・新ジャンルの開発を含めて“価格
”に寄り過ぎた側面がある。本来、お酒は嗜好品であり、味わいが出発点であるはずだ。そんな反省もあって、繰り返しにはなるが、「新・一番搾り」にしても、味わいの訴求を中心に、直感的に“飲みたい
”と思って頂けるようなコミュニケーションにしている。

現在、クラフトビールで家庭用に缶容器を提案しているのは「グランドキリン」だけだが、いずれは品揃えを拡げ、家庭で一層楽しんで頂けるようにしたい。

――ビール類以外はいかがですか。

1~9月で、RTD は「氷結」113%、「本搾り」113%。世界で親しまれているお酒を“氷結”流にアレンジした「旅する氷結」がプラスオンしている。アルコール度数は4%で、大きく若年層の支持を得た。「氷結」の好調は、昨年の「新しくいこう!」キャンペーンから目に見えてきた。2、3年前までは少しターゲットの年齢層が上に行っていた。それを若年層に引き戻すべくデジタルとリアルを融合したマーケティングを行い、志村けんさんやさかなクンなど意外なタレントの出演もあり話題となり、20~30代の支持を獲得できた。レモン・グレープフルーツだけでなく、季節限定フレーバーで需要を喚起出来たことも大きい。一方で、課題はストロング市場と考えており、ここは来年以降、いろいろと手を打っていく。

ウイスキーは非常に好調で109%。「富士山麓」に加えて「ジョニーウォーカー」は102%。業務用では、お客様のニーズがビールからハイボールやチューハイに移っている傾向も見られるので、この変化に対応するというのも大切だ。6月末に「ホワイトホース」のハイボール樽詰めを発売した。ハイボール「ウマハイ」が徐々に人気を得ている。これにより「ホワイトホース」は147%だ。

ノンアルコールビールテイスト飲料「零ICHI」は、販売予定を当初の7割増の240万c/s に再度上方修正した。市場全体も1~9月で105%程度と活性化されているようだ。早急にビール類並みのシェアは獲得していきたい。

――年末にかけての方針は。

柱は「新・一番搾り」だ。家庭用でも、業務用でも、一人でも多くのお客様に飲んでもらえるようにする。TVCM、交通広告なども追加投入し、営業部隊はサンプルをお持ちして、改めておいしさを実感してもらうなどの基本活動を徹底する。店頭でも業務店でも、広告でみた「新・一番搾り」を想起してもらえる状態にしておくことが大事だ。ギフトでも「新・一番搾り」が初めての歳暮ギフトとなる。アイテムを中元期から3つ増やした。前年実績は確保したい。

新ジャンルは「のどごし 華泡」を投入し、年間で新ジャンルNo.1を堅持する。そして、年末の基本活動の徹底で、来年を大きく羽ばたく年としたい。

〈酒類飲料日報2017年11月15日付より〉

 

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