マルハニチロ「WILDish」、簡便調理に加え“この袋が皿になる!”新たな価値を提供〈ブランドの創りかた〉
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レンジ調理のみでできる簡便調理に加え、皿を洗う必要もないという新たな価値を提供する。2019年8月に米飯4品でスタートし、現在は米飯6品・麺類2品の8品で展開している。同品の開発背景について、開発部商品企画グループ市販用冷凍食品課の林聡史課長に話を聞いた。
開発部商品企画グループ市販用冷凍食品課 林課長
「WILDish」シリーズの開発に際しては、3つの背景が挙げられる。1つは、単身世帯が増加する中で「個食」シーンが増加している点。また、開発当時の2018年、翌年の消費税増税が決まっていたなど、特に若者を中心に節約志向が高まっていた点。そして、冷食市場でも個食タイプの米飯が伸長していた点だ。
マルハニチロでこの3つに対応した商品を開発しようという中で、既に市場にもあった「トレー入り」という選択肢もあったが、2つのヒントが今回の商品コンセプト確立につながった。
1つめのヒントは単身赴任中のある人から、洗い物が面倒なので皿にラップをして冷凍米飯をレンジ調理して食べているという話を聞いたこと。洗い物を無くすという利便性はトレー入りでも実現できるが、ゴミが増えるしもちろんコストも上がる。
2つ目のヒントは、開発担当者が日常生活でスナック菓子を食べる際、マチ付きの袋の商品が目に留まり、自立して食べやすいと感じたこと。そこからマチ付きの袋で冷凍米飯を作って、袋からそのまま食べるというアイディアが生まれた。いざ開発に取り掛かると、卓上に置いた際の自立性や開口部の開き具合、切り取り線の高さ、調理後の中身の沈み込み具合など包材(袋)の設計には苦労し、何度も試行錯誤を繰り返しベストな形を探った。
また、もう1つのコンセプトとして「適量適価+本格品質」が挙げられる。食べきりサイズの容量により節約志向の高まりへの対応しながらも、同社冷凍米飯の独自技術「あおり炒め製法」を採用し、本格的な品質も備え持つ。ターゲットは若い男性に設定しており、その狙い通りに喫食者の中心も20〜30代男性だが、意外にもそれに次ぐのは60代男女だという。
林氏は「より高い年齢層の少人数世帯でも、簡便調理でゴミが少なく、食べきりサイズという点が評価されているのではないか」と話す。
さらなるポイントとして、発売当初から4品を揃え、「面」での展開を図ったことが挙げられる。
通常の冷凍米飯に比べてパッケージがコンパクトなため、1品のみでは売り場で視認性が悪く埋没してしまう可能性があった。売り場に面で並べてもらうことを意識し、遠くからでも識別できるようカラーコントロールにも配慮し、尖ったコンセプトがより伝わりやすくなるようにした。
〈マーケットインの商品開発の事例に〉
林氏は「競合商品や自社商品だけを見て商品を開発したのではなく、生活者目線から、しかも未充足ニーズが顕在化する前にそれを捉えて開発できた成功事例の1つだと思う。ある商品があって、それに差別化ポイントを加えるという組み立てではここまでうまくいかなかったのではないか」と振り返る。いわばマーケットインの商品開発事例ということだろう。
コロナ禍による想定外の環境変化も追い風に2019年の8月に発売すると、夏休みの昼食需要もあって一時品薄になるほどの好調な滑り出しをすると、同年末には大手メディアの「ヒット商品番付」にもとり上げられ、ヒットの足掛かりを作った。翌2020年3月には第2弾として麺類3品を投入、3月中旬からテレビCMを投入し、露出を高めたところでコロナ禍の拡大があり、冷食需要の増加とともに一段と浸透が進んだ。
「テレワークが増える中、自宅でパソコンに向かいながらでも食べやすい。外出自粛で内食率が高まる中、とりわけ自分で料理をしない単身者層で昼・夜・間食のニーズにはまった。開発当初は想定していなかった環境変化がさらに追い風になった」という。緊急事態宣言で外出自粛が続く中、2021年7〜9月にはさらに需要が高まり、販売の伸長が続いているという。
また、発売当初からコンセプトは大きく変えていないが、最近はより若い男性を意識したガッツリ・やみつき感をキーワードにしたラインアップを展開している。
発売当初は「焼豚五目炒飯」「豚キムチ炒飯」「エビピラフ」など比較的親しみやすいメニューを揃え、2020年春に「ねぎ塩豚カルビ炒飯」、2021年春に「牛カルビ焼肉めし」、同年秋には「ガーリックめし」をラインアップに追加。なお、2020年に発売した「ねぎ塩豚カルビ炒飯」も2021年秋、黒こしょうやガーリックを増量し、よりやみつき感を出すリニューアルをしている。また、麺類は現在、「魚介豚骨まぜそば」「ねぎ塩豚カルビ焼そば」の2品を展開する。
今後も個食ニーズは高まると見られ、同シリーズではラインアップ強化もさることながら、喫食簡便性をよりブラッシュアップしていく方針だという。
林氏は「当社の冷凍食品は歴史的にお弁当品中心で、若いユーザーの取り込みはあまり上手ではなかったと思う。ここまで若者に刺さったシリーズは初めてと言ってもよいほどだ。20〜30代の情報発信力があり、今後長く使ってもらえる世代にファンになってもらうためにも、このシリーズを強化せねばならない」と話す。
そういう意味もあってプロモーションではテレビCMも投入しながら、WEBを活用したデジタルプロモーションも積極的に行い、新たなユーザーに対してブランド認知を高めていく方針だ。SNSを活用したキャンペーンに加え、若者たちに人気のプロeスポーツチームにスポンサー協賛するという取り組みも始めた。
林氏は「家庭用冷凍食品市場はコロナ禍で家庭内食の機会が増加し、間口が広がった。Afterコロナがどうなるか読むのはなかなか難しいが、冷凍食品のおいしさや簡便性を、利用機会が低かった方に知ってもらえたのは間違いない。この「WILDish」に限らず、2022年の春・秋の新商品は、こうした新しい方々にリピーターになってもらえるような商品を投入し、さらなる市場拡大に繋げる大事なシーズンになると考える」と締めくくった。
〈冷食日報2021年11月25日付〉