“酒の造り手の力量を問う米”、途絶えかけた「雄町米」はなぜ復活したか
岡山県備前県民局は1月25日と26日の2日間、イベント「備前焼で愉しむ雄町米(おまちまい)の地酒BAR」を開催した。また、両日イベント前には岡山県を中心に活動するライターであり利酒師の市田真紀氏と備前焼作家の安藤騎虎氏が登壇しセミナーを開催。安藤氏が備前焼の歴史や容器としての特長を、市田氏が雄町米の特長や魅力を参加者に以下の通り解説した。
ライター・利酒師 市田真紀氏
〈雄町米の特長はふくよかで柔らかな味わい=ライター/利酒師・市田真紀氏〉
雄町米は1859年に備前国上道郡雄町(現・岡山市中区雄町)の篤農家である岸本甚蔵が伯耆大山参りの帰路で発見した「二本草」が同品種の起源となるが、その時代から絶やすことなく栽培されてきた唯一の品種。発見から第二次世界大戦前までは優秀な米として多く栽培されてきたが、社会情勢や制度変化、栽培のしづらさから昭和40~50年代には栽培面積が3ヘクタールまで減ってしまい、一時は途絶えてしまうのではと思われたが、地元の酒蔵の働きかけにより雄町米の栽培に賛同する農家を増やし、現在では山田錦、五百万石、美山錦に次ぐ生産量の酒蔵好適米となった。
生産は現在でも岡山県が9割近く生産しており、その中でも岡山市と赤磐市が大半を生産。また、岡山には旭川、吉井川、高梁川と言った大河川が多くあり、水の確保が容易であることや「晴れの国」と称される程気候が安定しているため、背が高く栽培が難しい雄町でも多く栽培されている。
「良い酒造好適米」の条件として、「粒が大きい」「心白(米の中心部の白く不透明な部分)が大きい」「タンパク質が少ない」と言うような条件があり、雄町米はそれをすべて兼ね備えた米。雄町を使って醸した日本酒はふくよかで柔らかな味わいが特長となるが、その中でもきれいな味わいの日本酒でもどっしりとした味わいの日本酒でも幅広く作られている。米自体が軟らかく、麹づくりやもろみの管理が難しいので造り手の力量が問われる米でもある。
備前焼作家 安藤騎虎氏
〈備前焼はあくまでも生活に密着した容器=備前焼作家・安藤騎虎氏〉
備前焼の特長の1つに「うわぐすりを使用しない」ということがあり、そうすることで微細な凹凸や気孔が形成され、液体を入れると緩やかに酸化させる作用がある。醤油など酸化させてはならないものには向かないが、ワインや日本酒、焼酎などであればまろやかでコクのある味にさせることができる容器となっている。
雄町米と同じく備前焼にも長い歴史があり、源流の源流まで遡ると教科書にも載っているような須恵器まで遡ることができる。皆さんがご存知の備前焼や恐らく工芸品のような扱いをされているというイメージを持たれているかもしれないが、元来は「漏れない」「丈夫」といった機能性が評価されていた容器。酒器としても特別なものでなく、あくまでも生活に密着した、機能的な容器と言うことを知っていただきたい。
〈酒類飲料日報 2018年2月5日付より〉
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