【米穀VIEW986】漂流する米政策 Ⅵ 平成30年産に向けて(17) 髙木勇樹氏に訊く〈1〉「多様化する産地」の端緒になるか「いわゆる減反廃止」元年

髙木勇樹氏(元・農林水産事務次官、元・農林公庫総裁、現・日本プロ農業総合支援機構理事長)
毎度お馴染み「ご意見番」の一人である農林水産アナリストの髙木勇樹氏(元・農林水産事務次官、元・農林公庫総裁、現・日本プロ農業総合支援機構理事長)に訊くシリーズ。今回は、「いわゆる減反廃止」初年度、平成30年産を迎えるにあたって、今後の方向性を訊いた。

――「いわゆる減反廃止」の初年度を迎えるにあたって。もう迎えていますが。

髙木 言葉の問題として、「減反」という単語に意味はなく、分かりやすいし短いから使っているが、「いわゆる減反廃止」を迎える以前から、あえて言えばポジ配分になって以降、それぞれの産地が特色を出しつつあることは分かる。先日、米麦日報に連載されていた荒幡(克己岐阜大学教授)さんの寄稿でも各産地の取組みが分析されていた。ああしたものを見ると、産地の実態、多様化する産地の実態がこれからハッキリ出て来るきっかけになると、確信することができた。

そもそも全体的には、「生産力」は弱ってきつつある。もちろん大規模経営者など力のある経営体が出てきつつあるのも一方で間違いないところだが、トータルとしての力は衰えてきつつある。特に、いわゆる兼業農家的にやってきた方々が、生産力から脱けていく。そこを、大規模経営者がカバーできるかどうか。荒幡さんの分析にもあったが、大規模経営者は、マーケットインを徹底するとか、生産コストをいかに下げるかとか、そうしたことに経営の軸足を置き始めている。ある意味当然のことではあるが、そうした傾向がますます鮮明になってくると見ている。となると、例えば「農地が空いたからどこでもいいヨ」とはならない。一口に規模拡大といっても、マーケットインとコストのモノサシから判断する、せざるを得なくなってくる。一言で言えば生産の段階は、実態を反映した動きが強まってくるということ。

ただし、まだまだ先行き不透明な要素もある。それは制度的な枠組み。特に飼料用米助成を中心とした「水田活用の直接支払交付金」の存在だ。いつまで続けるか、助成単価の上げ下げ、基準単収の上げ下げなどが不確定要素なのだが、行政・政治いずれも「変えよう」という動きになりにくくなっている。食料・農業・農村基本計画では「飼料用米2025年110万t」の目標を掲げており、これを本気でめざすとするなら、様々な方面に影響が出て来ざるを得ない。しかし今は、(主食用の)高米価という「現実」に支えられているので、そう簡単に変えようがないのも事実だ。

また飼料用米の取組みのなかで単収競争が巻き起こっている。単収を上げてコストを下げることは結構なのだが、それがどこまで政策的に強化されていくか。本当の意味でコストが下がって、ある程度の支援(助成)さえあれば、今の10a10.5万円を限りなく下げていければ、ひょっとすると「エサ処理」の発想ではなく「飼料用米」が、初めて日本に根づくかもしれない。その頃には飼料用「米」ではなく、トウモロコシなども選択肢に含めた「飼料用穀物」の世界になっているかもしれないが。それこそが、私にとっては非常に望ましい。

話を飼料用「米」に戻して、仮にコストを下げ、ある程度の支援で十分となれば、「備蓄」機能も備えることになる。飼料用米に政策的・国民的な意味を持たせるとするなら、水田で作っている米を通常は飼料用に回すが、いざ事あれば主食用として出荷する、備蓄するためのコストであるという説明なら、意味を持たせることも難しくない。また、そうなれば飼料用米というものが定着するベースができるということでもある。

大規模経営を展開している人ほど、そこに目をつける可能性が高いのではないか。荒幡さんも指摘しているように、大規模になればなるほど、労働力の分散や全体コストを下げることに気を配り、様々な作期の米を組み合わせるとかコンタミを防ぐために団地化するとか、様々な工夫ができるようになる。その行き着く先が備蓄機能の発揮になるのではないか。

〈米麦日報 2018年6月1日付より〉

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